映画『主戦場』に登場した12年前の国会答弁。安倍総理は何を語ることを拒否したのか?

 映画『主戦場』公式サイト

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話題の映画『主戦場』に登場した12年前の安倍首相答弁

 慰安婦問題に正面から向き合い、各地の映画館で連日立ち見が出るほど注目を集めている映画『主戦場』。  前回、この映画に登場する12年前の国会答弁について信号無視話法で分析する記事の前半をお送りしたが、今回はその後半、8問目以降の答弁について同様に信号無視話法分析を進める。  その国会答弁とは、第一次安倍内閣時代の2007年3月5日の参議院予算委員会で当時民主党(現・立憲民主党)の小川敏夫議員が慰安婦問題について安倍総理に質問したものだ。  この質疑には慰安婦問題に関する重要な論点(河野談話、慰安婦は強制連行されたのか、米国議会での慰安婦の証言、吉田清治氏の証言、等)が詰め込まれており、これらの論点に対する安倍総理の認識を垣間見ることができる。  前回同様、当日の小川議員の慰安婦問題に関する質問全11問に対する安倍総理答弁を信号機のように3色(青はOK黄は注意赤はダメ )で直感的に視覚化していく。なお、色分けについては配信先によっては反映されないため、その場合、HBOL本体のサイトでご覧になることをオススメする。  また、前回記事同様、以下2つの注意点をご理解頂きたい。 (1)この分析では小川議員の質問に安倍総理が答えたどうかに着目する。つまり、慰安婦問題の真偽には言及しない。真偽については、ぜひ公開中の映画「主戦場」をご覧の上、自ら考えて頂きたい。 (2)これまでの信号無視話法分析のルールと異なり、灰色(不要な言葉、意味不明な言葉、似た言葉の繰り返し)を使わない。「まさに」「いわば」などの不要な言葉や似た言葉の繰り返しが多い安倍総理の答弁を読みやすくする上で灰色は有効だったが、ある理由によって今回は使わない。理由は本記事の最後で説明する。  また、この質疑で安倍総理は「強制」という言葉を狭義と広義の2つの意味で用いている。 狭義の強制:官憲による強制連行(慰安婦狩り) 広義の強制:経済状況による事実上の強制、業者による事実上の強制  この2つの違いに留意しながら、質疑の内容を読み進めて頂きたい。

質問8~10への安倍答弁

<8問目>  7問目で米国議会の決議を「事実誤認がある」と言い切った安倍総理。この点について小川議員は切り込んでいく。 小川議員: 「アメリカの下院で我が国が謝罪しろというような決議がされるということは我が国の国際信用を大きく損なう大変に重要な外交案件だと思うんです。それで事実誤認だから、そういう決議案をもしアメリカ下院がすれば、事実誤認の証言に基づいて決議をしたアメリカ下院が悪いんだと。だから日本は一切謝罪することもないし、そんな決議は無視する。無視していいんだと。これが総理のお考えですか。」 安倍総理:これは、別に決議があったからといって我々は謝罪するということはないということは、まず申し上げておかなければいけないと思います。この決議案は客観的な事実に基づいていません。また、日本政府のこれまでの対応も踏まえていないということであります。もしかしたら委員は逆のお考えを持っているのかもしれませんが、こうした米議会内の一部議員の動きを受け、政府としてはですね、引き続き我が国の立場について理解を得るための努力を今行っているところでございます。(青信号)」  安倍総理の慰安婦問題に対する認識がはっきりと確認できる。発言の是非は別として、質問には回答しているため青信号とする。 <9問目>  1問目で河野談話を「継承していく」と回答した安倍総理。その河野談話には旧日本軍の関与が認定されている事実を引き合いに出して、小川議員は質問を重ねていく。 小川議員: 「河野談話は単に業者が強制しただけでなくて、慰安所の設置や管理、慰安婦の移送に対する軍の関与を認定したと言っておるわけです。このことについて総理は認めるんですか、認めないんですか。 」 安倍総理:ですから、先ほど来申し上げておりますように、書いてある通りであります。」  事実上の回答拒否であり、赤信号とした。 <10問目> 小川議員: 「書いてあるとおりは、書いてあるのは事実ですよ、書いてあるのは。総理がそれをそういうふうに思っていますかと聞いているんです。」 安倍総理:ですから、書いてあるとおりでありまして、それを読んでいただければ、それが政府の今の立場であります。(赤信号)」  2問続けて事実上の回答拒否赤信号
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安倍総理は何を答えて何を答えなかったのか
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