「ご飯論法」が新語・流行語大賞トップテンに選出されるまで<短期集中連載・「言葉」から見る平成政治史>

人々の「政治との接点」の変貌

 多くの人が政治について接触するのはメディアを通してだが、その存在感の軸足はマスメディアからネットへと変わろうとしている。政治報道の中心であった新聞の凋落は発行部数、信頼感ともに著しい。新聞「紙」は若い世代にはほとんど訴求しなくなりつつあるといってもよいし、変化を巻き戻すこともおそらくは不可能だ。  ネット、なかでも最近のSNSやソーシャルメディアは従来型のマスメディアと比較すると速報性、双方向性、多様な拡散性の点で秀でている。リアルタイムな発信が可能で、受け手と送り手のやり取りが可能で、さらに送り手の意図を遥かに越えた多様な広がりを見せるようになった。  現在では政治は一方的に批評される存在ではなくなった。世論や社会に訴求する主要な手段がマスメディアしかなかった時代には政治はマスメディアに対してある種の遠慮を見せていた。現在ではマスメディアに対する配慮は失われるとともに、強いプレッシャーを加え、従来とは異なった向き合い方を見せるようになってきた。政治家や政党はインターネットやSNSを通して直接社会にメッセージを発信し、場合によっては反論を行うようになった。政治は多くのコストをかけ、戦略と戦術、組織を活用する。言いたいことに対して、いっそう貪欲になった。  1989年から2019年まで続いた平成の30年間の改革についてはすでに多くの研究、評論、総括がなされている。  その一方で社会が政治をどのように捉えてきたのか、社会と政治の関係性はいかなるものだったのかという点についてはあまり検討されていない。

「平成の政治」とはなんだったのか?

 「平成政治」というと選挙制度改革、行財政改革、非自民政権への政権交代、自衛隊の海外派遣、国民投票法の成立、安倍長期政権、憲法解釈変更といった具体的な「改革」が思い浮かぶが、これらはあくまで政治システムの内的な変更である。  もちろんこれらは大きな変更であった。しかし平成の間に変わったのは政治システムにとどまらないのではないか、というのが筆者の問題意識である。  かつて卓越したジャーナリストのウォルター・リップマンはその著書『世論』を通して、固定観念(ステロタイプ)に依存したメディア的現実こそが「現実」として受け止められてしまう「疑似環境」論を提唱した。日本のように、現実政治と日常生活が注意深く隔離され、政治的なものがタブー視され忌避されがちな社会においては尚更のこと、政治というとき真っ先に想起されるのはメディア的政治のはずだ。分散こそ大きくなるものの、インターネット、そしてソーシャルメディアの時代においてもその傾向は変わらない。  変貌した政治と社会の距離感、言い換えれば政治と社会のあいだを埋めるものはどのように概観できるのだろうか。メディアは大別すると形式と内容に分割することができるから、ひとつのアプローチはメディアへの注目だ。メディアが政治をどのように報じ、政治がまたメディアをどのように活用しているのかを知ろうとすることは形式への注目にあたる。  『メディアと自民党』(角川書店、2015年)、『情報武装する政治』(KADOKAWA、2018年)などの仕事を通じて、筆者はインターネットの時代、とくにSNS活用が本格化する2010年代以後のそれらの問題に接近を試みてきた。自民党をはじめ野党のメディア活用状況とその変化を取り上げながら、政治や政党、個人の政治家の変化について論じた。  その一方で異なるアプローチもありうることに気がついた。それが内容への注目であり、政治についていうなら政治を表現する言葉への注目である。平成という時代を通じて、社会は政治のどのような言葉に注目し、評価と批判を加えてきたのだろうか。
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流行語となった「政治」にまつわる言葉
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