「ご飯論法」が新語・流行語大賞トップテンに選出されるまで<短期集中連載・「言葉」から見る平成政治史>

西田亮介
国会議事堂

まちゃー / PIXTA(ピクスタ)

 平成の30年を通じて多くの制度変更が行われ、それと同等かそれ以上に政治と社会の距離感は大きく変貌を遂げた。  政治も確実に社会に対する向き合い方を変えているし、社会の政治に対する構えも変わった。政治とカネに対する反省を契機に導入された小選挙区制やそもそもの自民党に対する積年の反感もあり、包括政党としての多様性と多元性、党内の競争関係を有する自民党に規模の小さな野党が複数存在対峙する55年体制の構図は平成冒頭をもって姿を消した。  ただし同等の勢力の政党が切磋琢磨する二大政党制へという制度変更当時の意図は未だ完成には至らない。かといって、新しい政治の習慣やルールが定説というほどに根付くわけでもなく、平成の政治は試行錯誤の連続であった。 「反権力」に代表される権力批判やその擁護すら、市井の水準では自明のものでなくなりつつあるかのようだ。政治(家)を擬人化し、性善説に立とうとしてみたり、本来性質が異なるビジネスの比喩、とくに素朴な費用対効果を当てはめてみたりといった事例も散見される。  同時に「反権力」の分散は野党の支持基盤の脆弱さと無関係でもなさそうだ。かつては学生運動や冷戦の影響もあり、若年世代の反体制は所与のものとみなすことができそれらの論点も比較的明確だった。1989年のベルリンの壁崩壊と旧ソ連邦解体以後、第2次世界大戦後長く世界を二分してきた比較的単純な理解の構図が失われた。理念はさておき、実質的に日本がアメリカの代表される西側諸国に属していることの利点が自明であった時代もまた終わりを告げた。

「権力と反権力」の衰退、「過剰な現実主義」の台頭

 最近はどうか。世界の複雑性は格段に増加した。国家と非国家が対峙する非対称戦やテロが頻発するが、因果関係は極めて複雑だ。また同盟国としてのアメリカはこれまで以上に露骨に自国の利益を日本にも押し付けてくるようになった。声高に中国、ロシアの脅威が喧伝されるが、さすがにアメリカのリスクに目を瞑ったままというわけにもいかないだろう。  複雑化する状況のなかで、政治の既定路線があり、若い世代はその既定路線への反発も含めて「理想」と「反権力」を模索するという、やはりわかりやすい図式はあまり若い世代に訴求しなくなりつつあるかのようだ。  若い世代の政権支持傾向は年長世代を上回っているし、投票率の落ち込みも目立つ。若年世代の投票率の低さはかねてから存在したが、しかし平成末期と1970年台の20代の投票率を比較すると、概ね半分程度の水準だ。ただし世論調査などでも見られるように、政治や政治的なものに対する不信感はいまも根強く存在し、それと対になってかつて丸山眞男が警鐘を鳴らした過剰な「現実主義」が幅を利かせている。  丸山眞男は「現実主義の陥穽」などを通して、日本における現実主義は政治の既定路線の肯定に結びつきがちで、「他のあり方」に対する想像力と選択肢を毀損しがちだと述べた。平成とポスト平成の現実主義は過剰に対案を要求することで、オルタナティブへの思考を許さない狭隘なものになりつつあるようにも思われる。
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人々の「政治との接点」の変貌
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