奈良林氏の講演でも質疑が活発に行われました。市議会議員からの質問もいくつかありましたが、
地球規模・大所高所からの奈良林氏の視点と地元の将来という市会議員の視点には齟齬があり、あまり質疑応答がかみ合っていないように見受けられました。
また、長年原子力推進の立場であったと自ら述べる市民代表者からは、自分の正しさを裏付けられたという熱い声援が送られ、かなり長い質疑が行われていました。
筆者は、原子炉安全解析の専門家に話が聞けると機会とあっては逃せないので、具体的なキャスクのサイズ、遮蔽体の厚み、遮蔽体の耐久性、キャスクの価格などについて具体的な質問をしましたが、「
私は大学側の人間なので、そういった具体的なことは分かりません」という答えでした。
この講演は、原子力の必要性を地球環境という大所高所から述べるというもので、資料も平易であって市民向けの講演としてはよく作られています。講演での主張は次のようなものでした。
1)化石燃料を使い続けると地球温暖化によって地球は破滅する。太陽光は、最悪の代物で、日独と言った世界で破綻しつつあり、国民にたいへん重い負担を押しつけている。
2)原発の停止は、社会に大停電のリスクを押しつけており、人命と経済に大打撃を与える。
3)原発は安全であるからどんどん再稼働させねばならない。
4)世界は脱・脱原発に向かっている。中国は将来200基に世界は1000基に原子力発電を増やそうとしている。日本は乗り遅れて良いのか。
5)伊方発電所の使用済燃料乾式貯蔵施設は安全だ。
私は、原子力発電所立地自治体とは無縁でしたので、このような推進派とされるかたの一般向けPA講演は初めて聴講しました。業界内部向けとかなり異なり驚いています。
奈良林氏は、日本の原子力業界の絶頂期に貢献され、退潮期には大学に移られていますので、現状への歯がゆさは理解出来ます。おそらく
原子炉が好きで好きでそれ以外無いのだと推察されます。
巷で批判されるような
食い扶持稼ぎや小遣い稼ぎで原子力PAをやっている有象無象のPA師では無いのでしょう。
しかし講演を聴講して感じたのは、
立地自治体市民が知りたいことについてはほとんど言及が無かったことです。耐震性などについては原子力規制委員会(NRA)の審査が正常であるならば、それほど問題にはなりません。
八幡浜市民は、
なぜ今乾式貯蔵施設なのか、それはいつまで中間貯蔵されるのか、期限が来れば必ず撤去されるのかを知りたいのですが、答えはありませんでした。
また、典型的な
恫喝型PAに錯誤型PAがサンドイッチされているPA講演が、いまだに通用するのかは大いに疑問があります。
市民代表として実業界から参加された方からも、
こんな講演で賛成が集まるものかという厳しい意見が聞かれました。顔見知りの一般参加の市民は、「
あの先生は全然分かっていないよ」と怒りのこもった感想を述べていましたが、そう思われても仕方ありません。
奈良林氏には悪意など無いと思いますが、今回の様な講演は、私には面白くてもPAとしてはもはや通用しなくなっていると言うほかありません。
奈良林氏の講演は、私にとってはたいへんに面白く有意義なものではありましたが、使用済燃料乾式貯蔵施設設置のPA活動としてはとても成功とは言いがたいものと考えます。これは奈良林氏の問題では無く、
八幡浜市、愛媛県、四国電力、電事連、経産省の考え違いによるものです。
次回は、長沢氏、奈良林氏の両講演を通して日本における使用済み核燃料乾式貯蔵そのものについて論じます。
※
前回記事の訂正
前回の記事で、筆者の見落としにより記事が一部誤っていましたので訂正しております。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編−−3
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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