Bさんのケースに話を戻そう。
前述のように、HSUは学校ではないので、学歴上も国の統計上も「進学」先にならない。それでいてHSUでは、私立大学とほぼ変わらない授業料に加え寮費がかかるため、初年度の費用は200万円近い。親はBさん名義で、奨学金という名の借金をさらに重ねようとしていた。
2019年度HSU募集要項より
「これはもう無理だと思い、親から離れて生活し始めました。そのために消費者金融でお金を借りました。派遣の仕事について何年か働いたのですが、夜眠れない、人の話が頭に入らない、人混みで気分が悪くなるといった症状が悪化して、仕事が続けられなくなった。病院に行ったら、うつ病だと診断されました。いま考えれば、同じ症状は親からHSUへの入学を強要されていた頃からずっとあったんです」
その頃、学園時代の奨学金返済の督促が来た。親が返済するという約束でBさん名義の借り入れになっていたのに、親が返済していなかったのだ。自分の生活費のための借金とあわせて300万円近く。仕事もできず、病院代がかかる。自己破産と生活保護以外に、生きる道はなかった。
生活保護を申請すると、自治体がまず親族に連絡を取り、本人の生活を支援する意思があるかどうかを確認する。親族が支援する場合は生活保護にならないが、Bさんの親は支援を拒否した。
それでいて親はBさんに「一緒に大川総裁の講演会に行こう」とメールしてきたり、幸福の科学の映画のチケットを一方的に送りつけてきたりする。
「幸福の科学もおかしいですが、それ以上に親がおかしい。カルトの問題というより毒親の問題といったほうがいい気がします」(Bさん)
そもそも親に問題がある。そこにカルト宗教がブースターの役割を果たしている。そんな構図だろうか。
Bさんは自己破産と生活保護の手続きが一段落したことで、少し安定してきたようにも見える。しかし時折「早く仕事をして自分の力で生活したい」という焦りも見せる。睡眠薬の過剰摂取もする。
Bさんと何度か会って話を聞いていても、教団で身についた価値観によって社会になじめない、という側面はあまり感じられない。学園でネトウヨ的な政治教育を受けてきたわりに、「中国や韓国についてどう思う?」「共産党ってどういうイメージ?」と尋ねても、とくだん偏った答えは返ってこない。ごく常識的な若者だ。冗談も言うし、よく笑う。
「教団の中での常識がおかしいということは、教団の外で生活すればすぐわかるようになる。私自身は、未だにその価値観に縛られているという実感はありません。ただ、学園卒業後にアルバイトをしていた時期、面接で履歴書を見た担当者にからかうようなことを言われたりすることがありました。それが嫌で、以降は履歴書にウソの高校名を書いてバイトについたりしていた」
Bさんの場合は教義や価値観の問題より、親との関係、生活苦、そして社会からの差別が、困難の直接の原因になっているように見える。
<文/藤倉善郎(
やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:
@daily_cult3>
ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)