終わりなきカルト2世問題の連鎖<短期集中連載・幸福の科学という「家庭ディストピア」1>

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティという「鬼門」

礼拝堂

HSUに鎮座するピラミッド型礼拝堂

 幸福の科学は、学園を卒業した2世たちに、新たな「道」を用意していた。2014年に「幸福の科学大学」の設置が文部科学省から不認可とされ、無認可の信者教育施設として開設された「ハッピー・サイエス・ユニバーシティ(HSU)」だ。  初年度は学園卒業生の8割が進学も就職も放棄してHSUに入った。その中には早慶合格者約30人もいた。すでに一般の大学に入学していた学園卒業生の中にも、大学を中退してHSUに入るケースが続出した。 「私も親や教団職員たちからHSUに入るように勧められました。職員たちは、露骨な強制はしないんです。いくら嫌だと言っても、面接のように大人たちが私の前に並んで座って、『どうしてそんなに嫌なの?』と、優しい口調で何時間も圧をかけてくる。家に帰ると、親がなぜHSUに入らないのかとなじる」  面接試験で志望動機を尋ねるのは当たり前だが、「受験しない理由」を尋ねる面接とは、世俗の感覚では理解に苦しむ。しかし幸福の科学とは、そういう宗教団体なのだ。強制はしない。緩やかに時間をかけて信者を追い込んでいく。  HSUの問題性は、Bさんの個別事例に限った特殊なものではない。幸福の科学における2世問題全般との関係で、非常に重要な、いや深刻な問題をはらんでいる。  HSUは大学どころか各種学校の認可も得ておらず、入学しても卒業しても学歴にならない。文科省による学校基本調査では、高卒者の進路にかんする統計がある。ここでは、学園を卒業しHSUに入った高卒者は、進学や就職ではなく「左記以外の者」に分類される。開設された2015年当時、文科省の担当者は筆者の取材にこうコメントした。 「この調査においては、そのような進路を“進学”とは呼んでいません。そのような所在不明(おそらく分類不明とか位置づけ不明という意味だろう)のところに行く人達は、就職の準備も進学の準備もしていないということで、“その他”に分類されます」(文科省の担当者)  厚生労働省は「15~34歳で、非労働力人口のうち家事も通学もしていない方」をニートと呼ぶ。
合格実績発表資料

幸福の科学学園の2018年度大学合格実績発表資料。なぜか有名大学だけ5年間の合計値が大きく記載されている

 幸福の科学学園自身は2018年度に有名国公立、私立大学の名前を並べ、重複合格も含めのべ129名が大学に合格したとしている。一方でHSU合格者は71名。  学校基本調査では個別の学校ごとの数値は公表していない。しかし栃木県那須町にある私立高校は幸福の科学学園のみ。そのため学校基本調査の栃木県発表分の市町村別統計を見ることで、学園の卒業生の進路がわかる。  これによると、2018年度、幸福の科学学園(那須校)の卒業生は92人だ。うち大学・専修学校進学者は29人である。63人(卒業生の約7割)が「左記以外の者」になっている。これがHSUに入った人数だと考えてよさそうだ。  大学合格者は多いものの、進学率は3割強。2018年の学校基本調査における高校(全日制・定時制)卒業生の進路の全国平均値は、大学進学率54.7%、専修学校進学率16.1%で、合計70.8%。栃木県内の受験情報で「偏差値69」などとされる幸福の科学学園だが、卒業後の進学率は全国平均の半分以下だ。  HSUの登場以降、幸福の科学学園は表向き偏差値や大学合格実績をアピールする一方、裏では毎年「進学でも就職でもない何か」に大量の卒業生を送り込む学校になってしまった。  しかしその卒業生たちは、家に引きこもっているわけでも何もせずフラフラしているわけでもない。HSUで、教団や信者である親たちからの期待を背負い、使命感に燃え、閉じられた世界で教義に基づいた独特な教育を受ける。もしかしたら並の大学生以上に真面目かもしれないし、もちろん優秀な人材も少なくないはずなのだが。  文科省が大学を不認可にしたせいではない。大学として認可されないまま開設を強行し、若い信者たちをそこに誘導している教団が生み出した状況だ。  幸福の科学は前回、大学として認可を申請した際、大川総裁の霊言を科学的に証明されたものであるかのように扱う教科書を必須科目で使用する予定であったことから、不認可とされた。また申請中の段階で、大学設置・学校法人審議会からの修正意見に反発し、大川総裁が当時の下村博文・文部科学大臣や審議会関係者の霊を呼び出したと称して非難する霊言を書籍化。それを審議会関係者に送りつけたり、文科省職員を脅したりしたとして、5年間は認可しないとのペナルティを課せられた。  その「喪」が開ける2019年に再申請するとも言われている。2021年の大学開学を目指して、すでに一般の大学等に対して教員募集の文書を配布している。  仮に大学として認可されれば、「教団によるニートの量産」という問題はなくなる。しかし、宗教と学問の区別がつかない教団による不合理な教育に、より多くの若手信者たちが巻き込まれていくことになる。  2013年、大川総裁は「『教育の使命』講義」の質疑の際に、幸福の科学大学について、こんな発言をしている。 「認可が下りるまではそれは、一応、文部科学省のご指導方針に合わせた方向で器の中に入るように作っていこうと思いますが、長い時間かければ逸脱して行くことは当然ありうるかと思っております」  まともな大学にする気など、はなからないのだ。  2世問題を意識して幸福の科学を見たとき、HSUは大学として認可されてもされなくても、厄介な存在だ。
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「カルトの問題というより毒親の問題」
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