――本業のお仕事をやりながらだと難しかったんでしょうか。
五十嵐:そうですね。六時に仕事を終えて店に向かって、十一時まで働いて帰って、また朝から会社の仕事をする、という形だったので、企画して何かを仕掛けたりする余裕がなかったんです。
結果として、本業の方も余裕がなくなってしまって、店の方も上手く行かなくなってしまって。スタッフを入れても、全部任せられるわけじゃないですから、結局見ていなければいけないんですよね。
――小さい店舗だと、オーナーが接客もすることになりますよね。
五十嵐:そうですね。でも、友達とか知り合いが来て、話をしていたりすると、アルバイトから「オーナーは私が働いているのに、遊んでばっかりだ」と言われちゃったりね。難しいんです。
――結局、損害はあったんですか?
五十嵐:金銭的な損害はそれほどなかったですね。というより、儲かっていないのを知った貸主の方が家賃を払わなくていい、とおっしゃってくださったんです。総合的に見れば、リターンのほうが大きいですね。貸主の方には本当に感謝しています。
――いい経験、ということですかね。
五十嵐:ネタは一生話し続けられますからね(笑)。こういう話は飲食店の方だったら言いづらいと思うんですけど、私は本業が料理研究家なので、話せるんです。
それから、経営として飲食を経験したことも、料理研究家としては大きかったです。
――実際にやってみてわかったことはありますか?
五十嵐:事前のリソース注入量は確保しないと駄目だな、というのはよくわかりました。プロモーションも含めて仕込みがものすごく重要なんだな、と。
――もう一回やるとしたらどうしますか?
五十嵐:同じような条件なら、お店のキャパシティをもう一回確認しますね。小さい店舗って、一人で生活していくにはちょうどいいと思うんですよ。ただ、他に任せられる人がいないという状況だと、ちょっとやらないですかね。
個人事業が推奨の規模があるんだなっていうのはわかりました。投資したものに見合うキャパシティがないと、投資過多になっちゃうか、全然投資が出来ないんです。
――客単価が凄く高いか、ある程度席数が多くないと厳しいんですね。
五十嵐:席数が少ないと、何かしらの付加価値がないと厳しいですよね。そうなると、やっぱりアルバイトの学生にやってもらうわけにはいけないんですよ。私が本業をやりながら、という想定に、そもそも無理があったんです。
売上的には結構頑張った方ですけど、店をやってる間に会社の案件を進めたほうがいいですよね。想定していたよりも膨大な時間がかかりました。
――他に気がついたことはありますか?
五十嵐:飲食店の採用の難しさですかね。アルバイトの方は紹介してもらったんですが、常勤の方は取れなくて。都内だと本当に採用は大変ですね。
――後輩の起業家や、飲食を志す方にメッセージはありますか?
五十嵐:とりあえず「やってみたほうがいい」とは思います。得るもののほうが多いですから。自分が体験したことのほうが、意見として強いので、それが営業の強みにもなるんです。
ただ、身の丈に合わない投資をして倒れるのは、少し考えたほうがいいと思います。最近は間貸しの飲食店なんかもあるじゃないですか。夜はバーで、昼間は別の店、みたいな。そういうことを経験してからやったほうがいい。
――リスクの少ないところから経験を積んだほうがいい、と。
五十嵐:儲からなくても絶対にやったほうがいいです。
状況とか立地とか、場所によってもぜんぜん変わるので、リハーサルだと思って、そういうことをやってから、飲食の世界に飛び込まれたほうがいいです。
――他になにかありますか?
五十嵐:FXで会社のお金をほぼ全部溶かした話とか、会社を週休五日にして大失敗した話とかありますけど、聞きます?
――いや、今日はやめておきます(笑)
起業家の教え #2
●挑戦するときは段階を踏んで!リスクを少なく挑戦しよう。
●投資するときは、その投資に見合うキャパシティがあるかを確認しよう。
●付加価値が高いことは人には任せられないかも。何が委任できるか見極めよう。
◆「栄光なき起業家たち」#2
<文/遠藤結万 Twitter ID:
@yumaendo>
えんどう・ゆうま●早稲田大学卒業後、グーグル株式会社(現グーグル合同会社)に入社。中小企業向けセールスとアジア太平洋地域の分析を担当。退社後、スパーク株式会社を設立し、インハウス化やマーケティング戦略支援、マーケティング教育などを手がける。デジタルマーケティングについてのブログ「
エッセンシャル・デジタル・マーケティング」を運営中。著書に『
世界基準で学べる エッセンシャル・デジタルマーケティング』(技術評論社)