厚労省リーフレットのQ&Aに目を転じてみよう。高プロへの懸念に応えるかのようでいて、このQ&Aの内容は全く誠実ではない。悪徳商法の勧誘で「ローンを組んでも大丈夫でしょうか?」というような問いをわざと立ててみせて、ごまかしの説明で安心させるのと同じ手法だ。
厚労省のリーフレットより
まず1つ目のQ&Aを見てみよう。
【Q】高度プロフェッショナル制度で、みんなが残業代ゼロになる?
【A】高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです。制度に入る際に、対象となる方の賃金が下がらないよう、法に基づく指針に明記し、労使の委員会でしっかりチェックします。
とある。
高プロは2015年法案では「残業代ゼロ法案」と言われた。1日8時間を超えて働いても残業代(に相当する賃金)が支払われないからだ。
正確に言えば1日8時間という法定労働時間の枠組みも高プロではなくなるので、残業という概念も残業代という概念もなくなる。そこで今国会では日本労働弁護団は「定額働かせ放題」として高プロを批判した。スマホの「定額使い放題」と同じ、というわけだ。
いずれにせよ、高プロではいくら長時間働いても、それによって賃金が増えることはない。労働時間と賃金の関係を切り離す仕組みだからだ。使用者にとっては、「定額働かせ放題」が可能となるので、労働者は過重労働を強いられる危険性が高まる。そのことは国会で野党議員によって繰り返し指摘され、労働団体や、全国過労死を考える家族の会の方々も強く主張してきた。
しかし1つ目のQ&Aは、問いの立て方がおかしい。「みんなが残業代ゼロになる?」などいうのが反対派の懸念ではない。高プロの対象者が残業代ゼロになる、と主張しているのだ。
なのに「みんなが残業代ゼロになる?」と誤った問いを立てて、「高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです」と、懸念を払しょくした風を装おう。あまりに不誠実だ。もしこの問いに誠実に答えるなら、
「みんなが残業代ゼロになるわけではありませんが、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職の方については、高度プロフェッショナル制度の対象者となった場合は、残業代は支払われなくなります」
だ。しかし、そうは答えたくないのだろう。
「制度に入る際に、対象となる方の賃金が下がらないよう、法に基づく指針に明記し、労使の委員会でしっかりチェックします」というのも、不誠実な説明だ。賃金が下がることになってはならないとは、
法の条文には書かれていない。「労使の委員会でしっかりチェックします」とあるが、「労使でしっかりチェックしてくださいね」という意味にすぎない。
また、労使の委員会で賃金が下がらないようにしても、仕事量が増えて労働時間が増えれば、時間あたりの賃金は下がってしまう。そういう不都合なことも厚労省リーフレットは説明しようとしない。
「ご飯論法」とは「朝ごはんは食べなかったんですか?」「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」のような論点ずらしの不誠実な答弁を指す。なぜ論点ずらしをするかというと、誠実に答えたくないからだ。誠実に答えると、問題が露呈してしまうからだ。
「高プロだと残業代ゼロになるのではないか?」というもっともな懸念に、誠実に答えるフリをして、不誠実な回答であたかも「ご懸念にはあたらない」かのように装う。このQ&Aは、まったく不誠実であり、厚労省が労働者を騙そうとしていると言わざるを得ない。