裁量労働制の拡大に向けた政府の再挑戦が始動。結論ありきを許すな

大手企業で、裁量労働制下の過労自殺への労災認定が表面化

 三菱電機で2014~2017年に、システム開発の技術者や研究職の男性5人が長時間労働を原因とする精神障害や脳疾患の発症により労災認定され、うち2人が過労自殺していた。朝日新聞が9月27日朝刊トップで報じた。(参照:三菱電機、裁量労働制の3人労災 過労自殺も-朝日新聞)  5人のうち3人には専門業務型裁量労働制が適用されており(過労自殺した社員1人を含む)、残る2人の若手社員も、いずれ裁量労働制の対象になりうる社員だったという。同社では全社員の3分の1にあたる約1万人に裁量労働制を適用してきたが、今年3月に裁量労働制を全社的に廃止したという。  裁量労働制をめぐっては、働き方改革関連法案によって対象の拡大がねらわれていたが、安倍首相が1月29日の国会答弁に用いたデータをめぐって国会が紛糾し、2月28日深夜に法案から関連部分が削除された経緯がある。(参照:「裁量労働制の拡大」を削除へ 首相、「働き方」法案で–朝日新聞)  続いて3月4日には、野村不動産裁量労働制を違法適用されていた男性が長時間労働により過労自殺し労災認定されていたことが朝日新聞の報道により判明。(参照:裁量労働制を違法適用、社員が過労死 野村不動産–朝日新聞)  野村不動産における裁量労働制の違法適用について東京労働局が昨年12月に「特別指導」を行った実績を政府が国会で答弁していたことから、都合の悪いことは隠し、監督指導がしっかりできているかのように装って裁量労働制の拡大を図ろうとしていたのではないか、と野党からの批判が続いた。  結局、働き方改革関連法は、裁量労働制の拡大は削除しつつ、より規制がゆるい(労働者にとっては長時間労働の危険性がさらに高い)高度プロフェッショナル制度の拡大を盛り込んで6月29日に可決・成立。経済界は裁量労働制の拡大をあきらめておらず、同日に経団連の中西宏明会長が発表したコメントには、「残念ながら今回の法案から外れた裁量労働制の対象拡大については、法案の早期の再提出を期待する」と明記された。(参照:経済界、裁量労働制巡り「法案の早期再提出を」–日経新聞)  この経団連の副会長が、三菱電機の山西健一郎・元社長(現特別顧問)である。その三菱電機において、本社や研究所、製作所など立地が異なる5事業場で、2014~2017年に5人が長時間労働により労災認定されたのだ。  この現状を真摯に受け止めるならば、必要なのは裁量労働制の対象拡大ではなく、規制強化だ。しかし実際には、改めて裁量労働制の対象を拡大するための法改正に向けた動きが始まっている。
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新たな法改正に向けて実態調査の議論を行う検討会が始動
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不信任案決議の趣旨説明演説をおこなったのが、衆院で野党第一党を占める立憲民主党の代表・枝野幸男議員である。この演説は、その正確さ、その鋭さ、そして格調の高さ、どれをとっても近年の憲政史にのこる名演説といってよいものだ。

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