私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る

宇佐美氏の発言で唯一「謝辞」を述べたい箇所

 さて、これらの宇佐美氏の発言は、既述の通り、論理学的基本問題として門前払いされるのですが、その中で一つ強く目を引くものがあります。PWR(加圧水型原子炉)発電所における外部電源喪失時の所内単独運転に関するものです。これは原子力安全の根幹に関わりますので、敢えて言及します。(参照:宇佐美典也のブログ)  まず、私は宇佐美氏が持ち出したと聞くまで、PWR発電所で所内単独運転が実施されていることを把握していませんでした。なぜなら、所内単独運転による運転継続は、原子炉を運用する電気事業者は強く実現したがってきたことですが、原子炉を不安定な過渡状態に置くことは多重防護の第一層を壊す行為であるため、多重防護の第一層を守ると言う原則から、逸脱運転である所内単独運転で運転継続するのではなく、まずは原子炉を停止すると言う共通認識があったからです。(参考文献:原子炉の暴走―SL‐1からチェルノブイリまで 石川迪夫 日刊工業新聞社 1996/04)  原子炉は、送電線への落雷により外部への送電が出来なくなると、直ちにタービントリップし、原子炉もトリップ(PWRの“方言”。BWRではスクラム。緊急停止のこと)します。この際、非常用DGにより電源を供給しますが、原子炉は自動的に止まります。原子炉は超低出力運転や停止直後、核毒(中性子を吸収し連鎖核反応を阻害する)Xe(ゼノン、キセノン)が発生し、臨界の維持が困難な過渡状態になります。  この過渡状態での原子炉の把握と制御に失敗したのがチェルノブイル4号炉の爆発事故です。チェルノブイル核災害はRBMK(高出力圧力管型原子炉;現在はLWGR軽水冷却黒鉛減速炉への読み替えが推奨されている)の、低出力動作時に核反応度に正のフィードバックがかかり、緊急停止を試みると核暴走するという致命的欠陥によって引き起こされたもので、LWGR特有の核暴走事故でした。とは言え、同条件で核暴走の起こり得ない軽水炉(LWR)ではあっても大型商用原子炉を不安定な状態に置くことは基本的な約束事として「しない」事になっているはずです。  勿論、PWRでは、全出力領域において核反応度には負のフィードバックがかかっており、固有安全性が確認されています。一方でBWR(沸騰水型原子炉)では低出力域での核反応度の正のフィードバックが疑われ、合衆国ではBORAX(BOiling ReActor eXperiment)という原子炉暴走・破壊実験が行われました。SPERT(Special Power Excurtion Test)とBORAXという二大原子炉破壊実験により、LWR(軽水炉)での原子炉暴走の条件は究明され、BWRでもPWRとは異なる機序で低出力領域でも核反応度には負のフィードバックがかかることが判明し、固有安全性が確認されています。特にBWRは、合衆国のたいへんな努力の上に今日があります。SPERTとBORAXという二大プロジェクトがなければ、BWRはこの世に存在し得なかったでしょう。  原子力は徹底した実証主義の学問であり産業です。日本は、合衆国の過去の莫大な努力の上に乗っているのです。  原子力安全の大原則として、多重防護の第一層を破壊する行為である低出力所内単独運転は禁じ手とされてきました。何か異常があれば「止める」です。多重防護の第二層です。  なぜ、このようなことをするのでしょうか。それは落雷にあります。関西電力の原子炉銀座から関西へ伸びる超高圧送電線は「雷銀座」を通過する為に落雷による送電停止は避けられず、結果として原子炉はトリップしその後三日ほど営業運転ができなくなります。これはゼノンオーバーライドによるもので、人間には制御不能の物理現象です。  ここで、私が阪大電気にいたときに隣の研究室がレーザー導雷の研究をしていたことを思い出してください。この方は、河崎善一郎博士です。現在は阪大の名誉教授でシンガポール在住とのことです。この研究のスポンサーは関西電力で、関電は原子炉を止める落雷を、レーザー導雷してでも阻止したかったのです。商用大型軽水炉が三日も止まれば経営上、辛いものがあります。その気持ちはよくわかります。  ですが相手は雷様、レーザーを使っても防護覆域を外れたところに落ちてきます。ですから、原子炉運転にあたり、落雷による数分から10分間の送電停止の間、Xeの濃度が上がるまでの十数分の間だけ非常用DGでなく発電用タービンの超低出力運転によって、綱渡り運転をし、外部電源復旧後、低出力運転に移行、数十時間で定格出力に戻すと言うものです。これによって1日か2日程度の運転日数は稼げます。  これは確かに可能ではありますが、多重防護の原則からは明らかに逸脱しています。多重防護の原則に則れば、短時間であっても外部電源の喪失や送電停止は、原子炉をとめねばならない重大インシデントです。新規制において、このような綱渡り運転が認められているのかに強い興味を持ちます。  ここまで読めばお分かりと思いますが、PWRにおける所内単独運転は、今回の北海道大停電とは全く無関係です。但し、宇佐美氏のお陰でこのような原子炉操作が過去20年間ちかく行われてきたことが市民の知るところとなりました。宇佐美氏の貢献はきわめて大です。深く御礼申し上げます。私は油断していました。  原子力技術が今後も存続し、発展するには市民にたいし謙虚であり隠し事をしないことが第一です。原子力・核工学をこよなく愛するものとして、原子力業界人士が社会の中で健全な業界をつくることを切に望みます。  次回、前回記事からアップデートされた情報を含めて、今時震災において北電管轄内で何が起きていたのか、再度検証し、今後どうあるべきかの一私案を提示します。 ※記事中宇佐美氏について「インターネッ党の広報担当者です。」とありましたが、これは事実ではありませんでした。訂正の上、関係者の方にお詫び申し上げます。(編集部。9月20日17時15分) 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』シリーズ2原発編-3 <文/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado> まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
1
2
3
4
PC_middleRec_left
PC_middleRec_right
関連記事
PC_fotterRec_left
PC_foterRec_right