「お客様は神様じゃない」。14年間続けた居酒屋のトイレが、常にキレイだった理由

髙坂勝
たまTSUKIのトイレ3

14年間、キレイに使われ続けてきた「たまTSUKI」のトイレ

 居酒屋やバーでトイレに行くと、便座が汚れている、もしくは汚してしまう、そんなことが多いだろう。特に男性は立って用を足すので便座からはみ出しがちだ。酔いすぎて吐いて汚す場合もある。

 ところがだ。かつて“退職者量産バー”の名を馳せたオーガニックバー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」は、トイレが滅多に汚れなかった。14年間の営業の中で、ひどくビチョビチョに汚されたという記憶は10回程度。1人で営むゆえ、トイレが汚れれば俺が掃除する。日々の営業でトイレの汚れが少なく、14年間にわたって毎日の掃除はずいぶんラクさせてもらえた。

清潔感と心地よさのある、キレイなトイレは汚しづらい

狭い店内

狭い店内、奥にトイレ

 トイレが汚れない、その理由をいくつか説明していこう。

1)靴を脱いで入る店で家のような雰囲気
2)店をおしゃれでキレイにしている

 来店者の多くが「友達か誰かの家に来たみたい」と言ってくれた。その印象が生まれる大切な仕掛けが「靴を脱いで入る」ということだ。靴を脱げばくつろぐ、そういうものだ。よくよく考えれば、靴なんて違和感そのもの。人間は本来、裸足がいちばん健康にいいし、リラックスできる。そもそも、この国では150年前まで靴なんてなかった。

 靴を脱いで上がった家が、モノでごった返していたらどうだろう。棚にはモノが積み上がっていたり、脈略のない飾り物が所狭しと並んでいてセンスがなかったり。モノが乱雑に入った段ボールが部屋の隅に無造作に置いてあったり、壁にはカレンダーやポスターやメモ書きなどが雑多に貼ってあったり、床は足の踏み場もなくゴミが放ってあったり、よしんば床のスペースが空いていても、とりあえず部屋の隅にモノを寄せてあるとか。

 そんな家でトイレに行っても、きっとキレイなわけがない。便座が汚れていたらキレイに使おうとも思わない。もし粗相しても、己が汚した分だけキレイに戻すなんて不可能だ。

 当店は、飾りを少なくしてセンス良く配し、飾り物にもこだわる。段ボールやプラスチック製品などは、お客さんの視線から見えるところには一切置かない。箸を置く、椅子を揃える、など規律性とリズム性を持って配置する。お客さんが店に入った瞬間から清潔感と心地よさを感じる理由だ。そういう店でトイレに入った時、汚すのは気がひけるし、キレイに使うことを試されていると思うものだ。

 普通に良識のある人は、知人の家でトイレを借りる折には汚さないように気をつけるし、汚したら自分で拭いたりする。当店でも、知人の家でトイレを借りる感覚で用を足してくれたのだろう。

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使う人に「気遣い」を生む仕組み

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