杉田水脈議員、ネオリベと反左翼の果てに辿り着いた“保守のジャンヌ・ダルク”

新自由主義と反左翼の果てに

 いくつもの政党を渡り歩いてきた杉田議員だが、彼女の思考は「カリスマ公務員」時代から現在まで、あらゆる物事を徹底してコスト意識で捉えるという点で一貫している。問題となった「生産性」が典型的だが、同様の見解は2年前に『新潮45』に寄稿された「「LGBT」支援なんかいらない」ですでに示されている。 “国や自治体が少子化対策や子育て支援に予算をつけるのは、「生産性」を重視しているからです。生産性のあるものと無いものを同列に扱うのは無理があります。これも差別ではなく区別です。” “(LGBT支援は・引用者注)人手を割いて取り組むほど重要な課題ではありません。もっと一般の市民の方々の生活に直結する問題でやらなければいけないことがたくさんあるはずです。” “このままいくと日本は「被害者(弱者)ビジネス」に骨の髄までしゃぶられてしまいます。”  杉田議員は自身が差別に加担し、人権を侵害しているという意識がきわめて薄い。自分が問題にしているのは、あくまで公的支援の是非、そしてマンパワーも含めたNPM的なコストマネジメントだと考えているようなのだ。今年2月以降の科研費騒動(参照:HBO「足立康史衆院議員による是枝裕和監督『万引き家族』と科研費バッシングへの対応の圧倒的な正しさ」)も当人にとっては単に税金の使途を追及しているだけのつもりなのだろう。 “学問の自由は尊重します。が、ねつ造はダメです。慰安婦問題は女性の人権問題ではありません。もちろん#MeTooではありません。それから、国益に反する研究は自費でお願いいたします。学問の自由は大事ですが、我々の税金を反日活動に使われることに納得いかない。そんな国民の声を受け止めてください。”  国家の有限なリソースの配分には、つねにコスト意識を持つべきだという主張は確かに共感を集めやすい。実際そうした新自由主義的な発想は世界中で猛威をふるっている。しかし、かつての民主党政権の事業仕分けもそうだったように、昨今の新自由主義的な改革・規制緩和は、「既得権益打破」の名目のもと国内に恒常的に敵をつくり出し、それを叩き続けることを強制する。改革という名の敵探しは新自由主義の宿命であって、時に自分自身をも切り刻むことも辞さない(「痛みを伴う改革」)。  もちろん誰の目にも明らかなムダをそぎ落とし行政を合理化すること自体には一定の意義を認めなくてはならない。しかし、杉田議員のように新自由主義的な敵探しが、左派的なもの一切への憎悪と結びついた途端、本来決してコスト云々で語ってはならない対象までもが、安易にコスト問題として処理されてしまうことになる。 「無駄といえば科研費」との発言もある杉田議員にとって、マイノリティをはじめ自己の権利を主張する者、政府と少しでも異なる見解を持つ者は、「国益」を毀損する「無駄」なのだろう。モラルなき反左翼の権化にしてNPM信奉者である杉田議員に対しては、おそらく「差別」や「権利」などの理念を持ち出して理解を求めようとしても、徒労に終わる可能性が高い。彼女の主観ではすべてカネのやりくりの話なのだから。  杉田議員はそのような自身の立場を「保守」だという。だが人間の尊厳や諸権利、思想信条までもコスト削減の対象とみなし、国民に分断をもたらす政治家は断じて「保守」と呼ばれるべきではない。

杉田議員は国民への説明責任を果たせ

 自民党は一連の騒動を受けてHP上で8月1日に杉田議員へ「指導」を行ったことを公表したが(参照:自民党)、翌2日には訪韓中の二階俊博幹事長がこの「指導」について「内容は何も聞いていない」と述べたとされる(参照:「産経新聞」)。  党の幹事長が「聞いていない」「指導」が存在するとはお笑いぐさで、実際、『週刊文春』8月16日・23日号によると、党の総裁である安部晋三首相も杉田議員の言動に対し「なんでみんな騒いでいるんだろうね」などと述べたというから、おそらく自民党としては9月の総裁選が終わるまでにほとぼりが冷めていればよし、そうでなくともこのまま事態は収束したことにして頬被りするつもりなのだろう。  杉田議員は朝日新聞の取材に対し、「真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたい」とのコメントを出している。だが一体何を「真摯に受け止め」、いかなる「研鑽」につとめるのか、そもそも自身の主張のどの点に問題があり、どの点は問題ではないと考えているのか、また削除済のツイートにおいて杉田議員が主張した「大臣クラスの方を始め、先輩方」から「間違ったこと言ってない」とお墨付きを貰ったという事実と、今回の「指導」との関係をどう理解しているのかなど、国民に対してまともな説明をするのが、国会議員としての最低限の責務だろう。先にも述べた通り、杉田議員は何が問題なのか理解していない可能性が高い。だが仮にそうであったとしても、差別問題や国民の諸権利に関する彼女の理解の浅さが会見等で可視化されること自体には一定の意義がある。(削除済みツイート参照記事:HBO ろくな少子化対策も論じずに「生産性」という言葉でLGBTの人権を毀損する杉田水脈議員は今すぐ辞職すべきだ)  杉田議員は今回のLGBTをめぐる発言のみならず、これまでにいくつもの事実誤認や問題発言を繰り返しており(参照:HBO「児童虐待への処方箋は戦前道徳の復活」? 珍説をのたまうエセ保守議員の伝統軽視を斬る)、それらに関して一切釈明も訂正もしていない。自己の言動に責任を負わない人間を国会議員にしておくという法外なコストを、かつてNPMに心酔した杉田議員は、はたしてどのように考えておられるのか。ぜひご意見を拝聴したいところだ。 <文・GEISTE(Twitter ID:@j_geiste〉>
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