「合理化」の影響を受ける自治体、その動きは早かったが……
大規模減便の発表を受けた各自治体の動きは比較的早かった。
減便の対象となった多くの沿線自治体が減便への反対を表明。2月までに九州全県と山口県の一部自治体がJR九州への改善要望を提出するに至っており、そのうち一部は住民意見の集約なども実施するなど、減便に対する危機意識はそれだけ強かった。
なかでも、JR3路線が集まる「鉄道の要衝」となっている大分県大分市は、九州全体の減便対象列車の3割弱に当たる29本が大分駅を発着するなど、影響を最も大きな受ける都市の1つだ。
JR大分駅。全国的に見ても有数の規模の駅ビルだが、この大分駅では実に1日29本が減便となる
大分市は人口約48万人。隣接する別府市などを含めると都市圏人口は約75万人にも上る。その中心駅であるJR大分駅の乗降客数は九州4位の1日約4万人。2015年に建て替えられたばかりの
駅ビル「JRおおいたシティ」は22階建てで、都内の駅ビル「ルミネ」にも引けを取らないテナントを揃え、年間約2500万人以上を集客するという日本有数の規模の駅ビルだ。
駅ビルの開業直前には市内を走る3路線がともに増発され、増発後の大分駅の乗降客は2010年ごろと比較して2割近く増えるなど鉄道利用客は順調に増加。JR九州に対する市民の満足度は比較的高かった。それだけに今回の大規模減便を残念に思う人は少なくない。
賑わう屋上遊園地。大分駅ビルは年2500万人を集客するJR九州の稼ぎ頭の1つで、開業後に駅乗降客も大きく増えた
JR九州は「お客さまの利用状況を見て削減する列車を決めた」としているが、今回削減される列車のなかにはラッシュ時に運行される利用客が非常に多いものも含まれているため、疑問を抱く市民も多い。
さらに、減便の影響は通勤・通学などのみならず、大分駅以北の大分県内の日豊本線沿線で始発・終発となる特急列車も削減の対象とされており、大分市や別府市から福岡市や大阪市など遠方に出かけた際の滞在時間が大きく減ってしまうため、
改善を求める声が多く上がっている。
大分市パブリックコメントの一部。減便は始発・終発列車やラッシュ時にも及ぶため、疑問を抱く声も少なくない
折しも大分市では、3月のダイヤ改正から市内の有人駅8駅が無人化され(※)、遠隔サポートシステムを導入した「Smart Support Station」(スマートサポートステーション、SSS)となることが明らかになったばかり。市側は「無人駅の増加は交通弱者が不便になる」としてJR九州に対策を求めつつも地方線区における合理化の必要性には一定の理解を示していたが、これほどの大規模減便となると話は別だ。大分市ではJR九州への減便反対表明のみならず、ウェブサイトで市民に広く意見を募集するなど、様々な動きを見せている。
※2月15日、JR九州は利用客の不安の声を受けて駅の無人化計画については一部を見直すとともにバリアフリー化を進める方針を発表した
大分市内では3月より無人駅も増加、「SSS化」工事も進む。安全性確保のためホームには新たに監視カメラが設置された(豊肥本線滝尾駅)
大分県では、大分市以外にもいち早くJR九州に減便撤回の要望書を提出した自治体がある。その1つが津久見市だ。
津久見市は2017年の台風9号豪雨被害により市街地が全面浸水、市内を走るJR日豊本線が土砂崩れや路盤の流出により約3ヶ月間に亘って不通となったほか、バス道路も被害を受けたため複数の路線バスが運休せざるを得なくなるなど、多くの公共交通網が長期に亘って正常に機能しなくなるという、ある意味「負の社会実験」とも言える状況を経験したばかりだった。
そうした矢先だっただけに、公共交通網の衰退は市の存亡にかかわるとして市長がJR九州に直接要望を伝えるなど、危機感を募らせている。
水害被災前の津久見駅。津久見市は市域が狭く、近隣自治体への通勤・通学者が多いため、不通期間中の朝は駅前に代替バスを待つ人々が溢れた