「支援方針」はゼロ……自治体にとって公共交通のあり方を見直す「キッカケ」に
先述した大分市や津久見市をはじめ、今回の減便発表や無人駅の増加を受けてJR九州に対し改善要望を出した自治体は数多くあるが、その一方で、JR九州への具体的な支援策を提案するに至った自治体はゼロであった(1月末現在)。
今回、減便に加えて複数駅の無人化も行われるなど合理化の影響を最も大きく受ける都市の1つである大分市も、取材に対して、自治体が無人駅に係員を配置するなど鉄道会社への支援策をおこなっている事例もあることを把握しているとしたうえで「鉄道利用者の安全確保や誘導、サービスの提供は鉄道事業者の責務であり、今後もJR九州に対しての要望をおこなっていきたい」と回答しているが、やはり市側がJRへの具体的な支援策を検討しているか否かについては触れられなかった。
もちろん、自治体にとってみれば減便方針の発表からダイヤ改正までは僅か4ヶ月ほどしかなく、積極的に動くにしても時間的余裕が無かったというのも大きいであろう。
それに、鉄道網は点ではなく線的、面的にネットワークが広がってこそ機能するものであり、1つの自治体のみでの支援活動にも限界がある。特に、多額の税金を投入するような抜本的な財政支援などをおこなうとなれば、沿線自治体間での調整を行わなければ住民の理解も得づらい。
実際、2017年にJR吉都線(鹿児島県・宮崎県、吉松駅-都城駅)の沿線自治体がJR九州の株式を取得しようとした際には沿線自治体ごとの足並みが揃わず最終的に断念、支援策は以前からおこなっている自治体個別の利用促進啓発活動の活発化などのみに留まることとなった。こうした自治体によるJR線に対する支援策の少なさは、多くの自治体が、鉄道よりも運行距離が短く1つの自治体内で完結することが多いバス路線への財政支援をおこなっていることとは対照的であるともいえる。
JR九州屈指の閑散路線である吉都線の中心駅の1つ・京町温泉駅。吉都線はこの春のダイヤ改正により1日22本から16本に大幅減便される
しかし、地域の高齢化が進むなか、仮に鉄道路線が廃止となれば「交通難民」が増えることは確実で、そうなれば自治体側としても地域交通網の再構築のため多額の予算を計上しなければならなくなることは避けられない。そのため、近年は財政面に比較的余裕があると思われる大手私鉄が運営する路線であっても閑散線区においては一部不動産などを自治体の所有とすることで経費削減を図る上下分離方式を導入するなど、鉄道会社と自治体の連携による「地域交通存続への取り組み」は活発化しつつある。
一方、九州には今回の減便発表までJR九州との意見交換を行ったことがなかったという自治体さえもあり、初めて鉄道交通の維持に対する危機感を持った自治体も少なくないと思われる。JR九州は相次ぐ増発に新型特急や観光列車の投入、駅ビルの建設、そして株式上場……と、華々しいニュースが続いていただけに、本業である鉄道部門の経営状況がどれほど深刻かということが自治体側に認識されていなかったのかも知れない。
自治体にとっても公共交通のあり方を見直す1つのきっかけとなったJR九州の合理化。
今後は、JR九州と自治体、そして利用者が互いに積極的に意見を出し合い、持続可能な公共交通のあり方を探っていくことが求められる。
無人駅でJR九州らしいカラフルな車両がすれ違う。本数は減ったとしても、生活の足は今日も明日も走り続ける(久大本線恵良駅)
<取材・文・撮影/若杉優貴 みねあか(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
@toshouken」