電気も通らないモザンビークの村に日本人が銀行を設立!
――燃料を作るだけでなく、農村開発のようなこともしているんですね。
合田:そこで問題が起きました。帳簿を合わせるたび、売り上げ金が足りない。で、現地スタッフに聞くとこう言うんです。「周りの村は電気もないのに、ここだけ電気も売店もある。それを妬んだ他の村の人が黒魔術師を雇って呪いをかけたんだ。そのせいで、妖精がお金を持って行ってしまった」と。
――すごい理由ですね。しかし現地の人たちとの関係性を考えると、頭ごなしに否定もできない。
合田:悩んだあげくに達した結論は、「現金を扱わなければいい」というものでした。村の人たちにICカードを配り、NECの協力を得て電子決済システムを導入。お店の決済を電子マネー化したんです。すると、最大で3割も合わなかった売り上げ金が、誤差1%以下にまで激減しました。
――しかし、電気が通ってないのに電子マネーを導入したんですか。
合田:電気が通ってないからこそです。電気の通らない場所には銀行の支店もありません。住民はお金を安全に保管する場所がなく、壺に入れて地中に埋めるなど非常に原始的な方法で管理していたんです。弊社はエネルギーの会社なので、自社の油で発電機を回せば発電できます。その電気を利用した電子マネーを導入することで、多くの人が現金をICカードにデポジットして管理できるようになりました。
――そこで、そのデポジットを預金として扱うモバイルバンクにしようと?
合田:単なる電子マネー事業では、デポジットしてもらったお金を事実上運用することができません。ですから、銀行業のライセンスを取る必要があったんです。弊社は電子マネーの決済を通じて、従来銀行が独占してきた「信用情報」を蓄積しています。また、現地で農業に関わっているので、農家の収入状況や作付け状況なども把握している。しかも彼らは弊社の売店で買い物をするので、支出状況などの細目にわたった情報をリアルタイムで持っています。いわゆる“Fintechの可能性”がここにあるんです。
――新たなビジネスチャンスがそこにあるというわけですね。
合田:それもありますが、現代世界の経済構造に対する違和感が根底にあります。それを乗り越えるために、デポジットしてもらったお金を使おうと考えているんです。
――どんな違和感なんですか?
合田:現地の農家を見ていると、私よりもはるかに長時間ハードに働いているのに、使えるお金の量は私のほうがずっと多い。このハードな仕事を何年積み重ねても、今の経済システムのままでは、彼らが私より豊かになることは決してありません。その「埋められない格差」に対する違和感です。
――典型的な“南北問題”の構造ですね。その違和感をモバイルバンクで乗り越えられるんでしょうか?
合田:銀行だけではできません。私は“代用貨幣”としての電子マネーを右から左に動かすことを事業化したいのではありません。弊社はあくまで農業とエネルギーの会社であり、その分野で勝負したいと考えています。食糧とエネルギーは人類存続の基礎であり、それをどう適正に分配するかという構造のなかに銀行は位置づけられるというわけです。
――妖精も電子マネーまでは持って行けなかったんですね(笑)。
「格差」を乗り越えるFintechの可能性
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