ランコ・ポポヴィッチ、あのサラゴサ大逆転劇を語る

 かつてJリーグでも監督として辣腕をふるい、今秋からインドネシアン・スーパー・リーグ(ISL)のFCプネー・シティの監督就任が決まったランコ・ポポヴィッチ。私と彼との会話は、常に「カズマは元気にしているか?」というセリフから始まる。言うまでもなく、「カズマ」とは彼がFC東京監督時代に指導し、筆者の友人でもある現ヴィッセル神戸主将のFW、渡邉千真選手のことである。  久しぶりに会った私たちは、相変わらずこのセリフから始まった。二人の会話は、渡邉千真選手の近況から、彼がこれからみることになるタイのサッカーについての話題まで多岐に及んだ。  そして、いつしか私達の会話は、サラゴサでの大逆転劇について、日本時代について、そしてあの超大物選手との真相についてと広がりを見せていった。

ジローナ戦を前に決意を語るポポヴィッチ氏の姿を報じる2015年当時の「El Prederico」紙

 「レアル・サラゴサ奇跡の大逆転劇」。筆者も一枚噛んだ、あのジローナとの一戦について、筆者が水を向けると、ポポは一呼吸おいて万感の思いを込めて答えた。 「あれは、わたしの人生でも一番忘れられない最高の思い出だな」 「オレもあれは忘れられないよ」 「あの日、試合が終わって列車でサラゴサまで帰ったらな、3000人以上の人が集結していたんだぞ。何の事前予告もないのに集まっていて、我々はもみくちゃにされたんだ。事前予告がないのだから、我々もそんなことになるとわかるはずがない。スタジアムにも、わざわざサラゴサから168人の人が来てくれていたんだよ。あの人たちには一年間の無料パスをプレゼントしてあげたいね」  この熱烈歓迎の様子は、YouTubeにも公開されている。 「第一試合が終わって、更衣室に入ったら、選手全員下を向いて最悪の雰囲気になっていたよ。そこにクラブの役員が入ってきて、我々の目標はプレーオフ進出だった、ここまでこれただけでも十分だみたいなことを言ったんだ。だけど筆者は諦めるつもりはなかったから、お前らどうしたんだ、と怒鳴ったよ」  同席していた親友の側近、ブラード・グルイッチが付け加える。 「まあみんな下を向いて落ち込んでいたんだけど、ランコが更衣室に入ってきたときに選手全員が一度だけ顔を上げたんだよな。そこでランコが言ったんだ。“次は勝つぞ。間違いなく勝つぞ”ってな」 「そういえば、オレのメッセージを見たのはいつだった?」と筆者が聞いた。 「更衣室に戻って、しばらくしてからだったな。スマホを開けて、お前の“チャンピオンズリーグ決勝のリヴァプールを忘れるな”を見つけて、すぐにブラードに見せたよ。“タカがこんなメッセージを送ってきてくれたぞ”とな」  選手にはどんな指示を出したのか。 「どのみち次の試合まで三日しかない。今日は家に帰れ。家族とゆっくり過ごして、ワインの一杯でも飲んで、リラックスしろ。明日はいつも通りの練習だからな」  今まで数多くのスポーツを取材して親しい選手・監督も増えてきた。いろいろな事例を見てきて一つ確信しているのは、「大一番直前に焦っているヤツは必ず負ける」だ。
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スタジアムまで2kmの長蛇の列ができ、グッズはすべて売り切れ
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