北朝鮮のICBMエンジンはウクライナ製? その真偽を検証する

鳥嶋真也
R-36ミサイル

R-36ミサイル Image Credit: Ministry of Defence of the Russian Federation

ウクライナ側の反論、その真偽は?

 この報告書や発表された後、ウクライナ宇宙機関やユージュマシュ、またユージュノエなどは相次いで、自身の関与を否定する声明を発表している。  たとえばユージュノエは、R-36やRD-250の製造ラインはすべて、それもソ連解体後(ウクライナ独立後)にすでに解体しており、現在では一切生産しておらず、その能力もないと明言。またRD-250を動かすのに必要な推進剤も生産していないので、北朝鮮に技術なりエンジン本体なりを流すことは不可能だとしている。  また、そもそもRD-250の”開発”は、現在のロシアにあるエネルゴマーシュで行われていたこと、ユージュマシュではエネルゴマーシュからの指示に基づく生産しか行っておらず、改造や改良などはできなかったこと、またユージュマシュで生産したRD-250はすべてミサイルやロケットに組み込んだ状態でロシアに渡っていたことなどを説明している。  さらに、北朝鮮のもうひとつのミサイルである「ムスダン」は、ソ連の「R-27」というミサイルの技術が流れたと考えられているが、その開発も生産も現在のロシアにあたる場所で行われていたと指摘している。  これらの点から、直接明言こそしていないが、「ロシアの関与のほうが疑わしい」と匂わせている。  このウクライナ側の声明は、半分正しく、半分間違っていると考えられる。たとえばR-36が、ソ連解体時にはすでに退役し、生産されていなかったのは事実だが、ウクライナはそのR-36を改造した「ツィクローン」という宇宙ロケットを開発・生産しており、2009年まで打ち上げられていた(ちなみに運用はロシアが担っていた)。さらに2010年代に入ってからも、ブラジルに輸出するための改良型のロケットの開発が行われていた。
ウクライナ製造ツィクローン

R-36をもとに開発された宇宙ロケット「ツィクローン」。2009年までウクライナが製造、ロシアで運用され、2015年まではウクライナで改良型が開発されていた Image Credit: Roskosmos

 ツィクローンはR-36とほとんど同じ機体であり、エンジンもRD-250と同じ、あるいは改良型であるため、その点では「ソ連解体後にR-36やRD-250の製造ラインはすべて解体している」、「RD-250のようなエンジンを生産する能力はない」といった説明は不正確である。ちなみにツィクローンをブラジルへ輸出する話は、2015年にブラジル側の都合でキャンセルされており、ウクライナ側はここでも大口契約を失うことになったため、北朝鮮に横流しした動機になりうる。  一方で、RD-250がロシアのエネルゴマーシュで開発されたこと、ウクライナで生産されたRD-250が(”すべて”かどうかは不明なものの)、R-36やツィクローンに組み込まれてロシア側に受け渡されたことは事実であり、またエネルゴマーシュの社内にある展示室にRD-250が展示されていることもわかっている。RD-250で使われる推進剤もロシアで生産されている(ただしウクライナで生産されていないという証拠はない)。  そのためロシアから流れた可能性も十分にあり、その点ではウクライナ側の指摘は間違ってはいないだろう。
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