それに加え、女性には月ベースで体調や精神のバランスも変わるため、仕事にムラが出やすいのも事実である。
前出の「料理の世界でも女性職人が少ない理由」の1つに、女性はホルモンバランスによって味覚が変わるため、安定した味を提供できないといった話も聞かれる。ゆえに、「男性料理人の作る安定的な味は、同じ店で同じものを食べていると飽きてくるが、奥さんや母親の作る手料理は飽きずに毎日食べられる」という、知り合いの料理人の立てる仮説も、あながち間違いではないのかもしれない。
余談ではあるが、筆者の場合、この女性の周期的な体調の変化で一番大変だった仕事は、長距離を運転するトラックでの技術営業だった。
以前、トラックドライバーは、時間厳守が最も重要だと述べたが、延着(遅刻して到着すること)しないようにとトイレ休憩なしで走ってきても、到着した工場に男性職人しかいないと、女性トイレがないこともしばしば。工場を出て探しはするが、田舎だと駐車できる広いスペースがあってもトイレのあるコンビニがなく、都会だとコンビニがあってもトラックを止められるスペースがない、というジレンマに踊らされた。それゆえ、毎月やってくる生理に対しては、長距離運転の仕事があると予め分かっている時にはピルを飲んで周期をずらしたり、男性ドライバーよりも早めに出発したりと、様々な策を講じていた。
このように、女性が職人になることは、決して容易なことではない。
選んだ分野によって、諦めなければならないこと、覚悟を決めなければならないことも多いだろう。しかし、女性のもつ感性の高さや、きめ細かさ、芯の強さは、男性職人に全く劣ることのない強みであり、年々数を減らす彼らにとっては、女性が今後、大きな役割を担う時が来るのかもしれない。
今まで作り上げてきた歴史や伝統と同じくらい、世相に合わせ柔軟に変化することも必要とされる職人の仕事。彼らの技術が今後も世界を唸らし続けていくことを切に願う。<文・橋本愛喜>