築地移転までわずか。仲買人たちは何を思うのか

「魚は既成品じゃない」

 築地の全体を見ると、魚介類の仲卸が大きく変わった理由は飲食店側のニーズの変化が大きい。 「時代の流れだね。今の仲卸はなんでもやる。昔は河岸に来て『魚を下してくれ』とかいったら『町の魚屋に行ってくれ』って断られた。20年前は丸の魚をそのまま納品していたけど、今は魚をいろいろ加工しないと買ってもらえない。切り身になった下ろした魚を欲しがる調理人が増えた。今も昔も鰤は人気だけど、今は頭と骨をとって三枚におろしてフィレにして納品する。うちも加工場を作ったし、加工する店も増えたね」  景気のいい時には何でも売れたが、景気が悪くなって調理場で人件費も時間もかけられなくなった。それどころか魚を捌けない職人(調理人)も珍しくない。 「色がちょっと違うとか形が違うとかいってくることもある。魚は既製品じゃないってわかんないんだよね。職人でも買い出しに来る人は少ないし、丸の魚を見ないからそう言い出したりする」  わざわざ河岸に魚を見に買い出しに来る職人は少数派。当然、職人と仲買人が顔を突き合わせる機会が減っていく。 「昔はみんな職人が店に来て魚を見て、帳場に口頭で注文を通してた。バブル時代とか忙しい時には、帳場の子ひとりに三人くらい一度に買出人が注文を言う。一度にみんなが言うから帳簿の付け落ちもあったと思うけど、景気のいい時代には細けえことを誰も気にしちゃいねぇ。イケイケどんどんだった」  今は注文も電話やファックスが注文の中心。インターネットを使って注文を受ける店もある。便利になったが職人と直接顔を合さない分、それだけ無理が効かなくなったそうだ。 「昔は市場の休み前に『残った魚を二束三文でいいからで引き取ってくれ』っていう“ブン投げ”があった。職人も『しょうがねぇなぁ』って買ってくれた。その代わり別の時にはこっちが職人の無理を聞く。持ちつ持たれつだった。今はいくら安くても『いらない』って、絶対に買わなくなったね」  世知辛い世の中になったという感触は、ここ築地にも押し寄せていた。次回は、築地が築き上げてきた江戸前文化の行方について掘り下げていく。 <取材・文/樫原叔子 写真/kontasan
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