ヘッジファンドなどの機関投資家は、利上げを見越してドルを買ってきていたので、実際に利上げされてもそれほどドル買いは進まなかった。むしろ、利益確定の売りの機会を窺っていた彼らは、今年に入るとドルを売り、一方でショートしていた金を買い戻し、金はV字回復の軌道に乗った。
豊島逸夫氏
「さらに、欧州と日本はマイナス金利を導入したので、金利が付かない金のデメリットがメリットに転じたのです。例えば、マイナス金利の国債を保有すると、金利を支払わなければならないが、金を持っていてもその必要はありませんからね」(スイス銀行金ディーラーで経済アナリストの豊島逸夫氏)
そして年初、金に追い風が吹く。米利上げにタイミングを合わせるように、世界経済を牽引する中国市場が不調を来し、各地で地政学的リスクが火を噴いたのだ。ICBCスタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が言う。
「中東ではサウジアラビアがイランと断交、中国では上海株が急落、北朝鮮では核実験……投資家を不安にさせるリスクが表面化しました。特に、中国発の世界同時株安が、投資家心理に与えた影響は大きい。そんな状況で何に投資すべきかと考えた結果、金にマネーが流入してきたわけです」
金にポジティブに働く要因は、まだ潜んでいる。豊島氏が続ける。
「中国経済は依然として先行き不安。それに、アメリカの大統領にトランプ氏が選ばれるリスク。こうした株式市場を暴落させかねない大きな不安定要因は、金が上昇する追い風になります」
現在、金価格は1300ドルの大台に迫った後、調整が入り、1200ドル台前半を緩やかに下げている。
「過去ずっと減り続けていた金ETFの残高は年初から急増し、わずか5か月で370tも積み増しました。これほど短期間での急増は、過去に例がない。一方、先物のショートは、いまだにかなりの量のポジションが残っており、1200ドル台前半から下がる可能性はあります。ところが、金ETFの残高はこれだけの下落にもかかわらず、ずっと増え続けている。つまり今の下げは、これまで積み上がった金先物のポジション調整によるもの。それとは別に、金市場に大量に買いが入っているのです」(池水氏)
確かに、図を見ると、金は下げているものの、金ETFは残高を増やし続けている。金には、まだ上昇の余地があるということだろう。
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大量に仕込まれた金先物のショートポジションの調整で、金は値を下げているにもかかわらず、金ETFの残高はむしろ急増している