もちろん、こうした乱用に近いスマートドラッグの服用を危険視する声もある。イェール大学メディカルスクールの神経生物学者エイミー・アーンステンは「ユーザーの多くはスマートドラッグを運動競技におけるステロイド(筋肉増強剤)のようなものだと考えています。しかし、それは適切な喩えではありません」と指摘する。脳は前頭葉や海馬など、いくつもの部位からなる複雑な器官だ。各部位はその他の部位と密接に影響しあっており、スマートドラッグの使用はそうしたバランスを破壊する可能性があるという。その結果、どのような障害がいつ生じるかは誰にもわからない。今のところ、多くのスマートドラッグにおいて致命的な副作用は報告されていないが、だからといって、それはスマートドラッグの安全性を保証するものではないのだ。
もうひとつ、アメリカで巻き起こっている議論は、スマートドラッグの使用が従業員の待遇格差をもたらすのではないか、というものだ。スマートドラッグを飲むことで確実に生産性が上がるのならば、飲まない従業員の生産性は相対的に低くなり、悪い評価をつけられることになる。その結果導かれる最悪の未来は、社会の構成員全員がスマートドラッグ漬けになるというものだ。
あなたのオフィスにスマートドラッグが姿を現し始めた時、あなたはそれを手に取るだろうか、それとも拒絶するだろうか。<取材・文/小神野真弘>