海外で話題沸騰中のニーチェ本にみる、日本の教育政策の危うさ

「学問によって身を立てる」という考えの愚

 昨年、英訳刊行されたニーチェの『ANTI-EDUCATION』(NEW YORK REVIEW BOOKS CLASSICS EDITED BY PAUL REITTER CHAD WELLMON)が海外で話題を呼んでいる(邦訳は無し)。  これは、1872年にバーゼルで行われた全6回に渡る講演を記録したもの。当時のドイツにおける教育(教養・主にギムナジウムと大学)の問題点が、年老いた哲学者と弟子による対話形式から明らかになる。  まずニーチェは、“教育によって身を立てる”、その考え自体が誤りなのだと断じる。
<生存競争を勝ち抜き、生きたいと願うのならば、多くを学ぶ必要があると言える。だが、そのような利己的な目的から得られるのは、本来の教育や文化とは全く関わりのないものばかりだ。>(筆者訳)
 もちろん、キャリアへの野心を一概に否定するのは難しい。しかし、それが教育の名の下に野放しにされている状態が問題なのだ。
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教育を職業上の自己実現の動機付けにする弊害
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