プーチンの宿願、ロシアに新しいロケット発射場が完成。その狙いとは?

プレセーツク宇宙基地から打ち上げられたアンガラー・ロケットの試験機。いずれヴァストーチュヌィ宇宙基地からも打ち上げられることになる Photo by Ministry of Defence of the Russian Federation

ロシア宇宙開発の自立に向けた第一歩

 今後ロシアは、どこかのタイミングでバイコヌール宇宙基地から撤退し、その機能をヴァストーチュヌィ宇宙基地へ移すことが計画されている。  バイコヌール宇宙基地は現在、ロシア国内の通信、地球観測衛星や軍事衛星の一部、また他国の商業衛星、そして有人宇宙船など、ロシアのロケット打ち上げの大半を担っているため、そっくりそのまま受け継ぐことになれば、ヴァストーチュヌィ宇宙基地はロシアにとって最大の「宇宙港」となる。  しかし、その未来はまだ不透明である。同基地はこれで完成ではなく、今後もアンガラー・ロケットの発射台などの建設が進み、さらに技術者や科学者など、関係者が暮らすための街も造られることになっており、完全な宇宙基地としての完成は2021年以降に予定されている。しかし、前述の建設遅れの原因となった諸々の問題を解決し、今後建設が順調に進むかどうかは注意して見守る必要があろう。また基地の完成後、技術者などの関係者、またその家族などを含めると、数千から1万人ともいわれる人々を移住させるのも大きな事業となる。  そして、新型ロケットであるアンガラーの開発が成功するかどうかも重要な鍵を握っている。アンガラーは機体の構成を変えることで、小型から中型、大型、超大型ロケット、さらに有人ロケットまで変化することができるという特長をもっており、ロシアではプロトン・ロケットをはじめとする大小さまざまな旧式ロケットの使用を止め、アンガラーにほぼ一本化することを検討している。実際、ヴァストーチュヌィ宇宙基地にはプロトンなどの発射台は建設されない。  プロトンなどは設計が古く、有毒な燃料を使っている他、ウクライナ製の部品を使っているため入手性に不安があるなど、ここにもソ連崩壊の余波が残っている。一方、アンガラーはロシアの純国産ロケットであり、さらに設計も新しく、信頼性の向上とコストダウンも図られ、環境にも優しいなど多くの利点があり、宇宙輸送の自立化とその維持が達成でき、さらには他国からの商業打ち上げの受注なども期待できる。  アンガラーはこれまでに小型ロケット形態が1機、大型ロケット形態が1機の計2機の試験打ち上げを行い、その両方が成功しており、幸先の良いスタートを切っている。しかし運用が安定し、従来のロケットを代替できるだけの能力と信頼性、コストなど目標を達成できるかどうかは、今後打ち上げを重ねていかなければまだわからない。  ヴァストーチュヌィ宇宙基地が周辺の街も含めて無事に完成し、打ち上げにかかわる人員の移住が滞りなく進み、そしてアンガラーが完成するという条件が整えば、ロシアはソ連崩壊後からの悲願である、外国に依存することなくロケットを打ち上げる能力を手にすることができる。 <文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。 Webサイト: http://kosmograd.info/about/ 【参考】 ・РОСКОСМОС. ПЕРВЫЙ ПУСК С ВОСТОЧНОГО ПРОШЕЛ УСПЕШНО!РОСКОСМОС. ПЕРВЫЙ ПУСК С ВОСТОЧНОГО – КОСМИЧЕСКИЕ АППАРАТЫ НА ОРБИТЕFirst launch from VostochnyVostochny cosmodromeFirst launch from Russia’s new cosmodrome declared a success – Spaceflight Now
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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