ロシアがカザフスタンから租借して使用しているバイコヌール宇宙基地 Photo by NASA
米国と双璧をなす大国であるロシアにとって、宇宙開発はきわめて重要な事業である。たとえば他国を偵察するには偵察衛星が必要だし、世界各地に展開する軍との通信には通信衛星が必要となる。有人宇宙船は技術力を国内外にアピールすることになり、他国の衛星を打ち上げれば外貨も稼げる。かつて冷戦中に、月を目指して米国と宇宙開発競争を繰り広げた名残もあり、ロシアは今でも毎年多数の人工衛星や宇宙船を打ち上げ続け、宇宙大国として名を馳せている。
現在ロシアは、主に「バイコヌール宇宙基地」と「プレセーツク宇宙基地」の2か所のロケット発射場から打ち上げを行っている。このうち、プレセーツク宇宙基地はロシアのアルハンゲリスク州にあり、偵察衛星が飛ぶ、地球を南北にまわる軌道に向けて打ち上げることに特化している。そのため通信衛星などが飛ぶ静止軌道や、有人宇宙船が飛ぶ低軌道に向けた打ち上げには向いておらず、そうした人工衛星の打ち上げはもっぱら、もう一方のバイコヌール宇宙基地から行われている。
バイコヌール宇宙基地といえば、世界初の人工衛星「スプートニク」が打ち上げられた場所として、また世界初の宇宙飛行士であるユーリィ・ガガーリンが飛び立った場所としても知られる。昨年、日本人宇宙飛行士の油井亀美也さんが飛び立ったのも、このバイコヌール宇宙基地からだった。
しかし、ロシアにとっては困ったことに、バイコヌール宇宙基地はロシア国内にはなく、カザフスタン共和国に位置している。バイコヌール宇宙基地が造られた1950年代当時、この宇宙基地がある場所はカザフ・ソヴィエト社会主義共和国の中、すなわちソ連の一部だった。ところがソ連が崩壊し、カザフスタン共和国として独立したため、ロシア連邦にとって外国になってしまったのである。
ソ連が崩壊した1991年以降、ロシアはカザフスタンに対して毎年約1億5000万ドルを超える金額を支払ってバイコヌール宇宙基地を租借し、使用し続けている。ロシアにとってはこの出費は痛く、そもそもロケット発射場が外国にあるということは、その国の都合で使用できなくなる可能性もあり、安全保障上の問題でもあった。またカザフスタンからは、ロケットが環境や人体に有毒な燃料を使っていることや、打ち上げられたロケットから分離したタンクなどがカザフスタン領土に落下することから、何かにつけて非難を受けていた。
しかし、プレセーツク宇宙基地に集約することは、前述のように打ち上げられない衛星があるため不可能で、そもそも毎年の打ち上げ数の多さからも、どこか一か所に集約するということは現実的ではなかった。そのためロシアは不本意ながらも、バイコヌール宇宙基地を使い続けるしかなかった。