人は電気も水道もない山奥で暮らせるか? 25年間追い続けたドキュメンタリー映画

「自然体で暮らす姿に惹かれる」と大反響

監督で山口放送ディレクターの佐々木聰さん

「山の中で暮らしている2人の姿には、余裕があった」と佐々木さん。 「ゆったりと過ぎていく山奥での生活のリズムの中に取材を通して入っていく中で、感じられるものは多くありました」という。  夫婦は晩年、地元の老人ホームに入居するが、それでも自分でクルマを運転して毎日のように山奥へ通った。 「そうして辿り着いた小屋から椅子を引っ張りだして、寅夫さんは外で昼寝している。フサコさんは草むしりをして……とても楽しそうでした」(佐々木さん)  その暮らしぶりは2002年以降、「ふたりの桃源郷」という題名のテレビ番組として数度にわたり放映。映像はナレーションや音楽も抑制的に、起承転結を極力つけずに取材した流れのまま編集したという。番組への感想は、ドキュメンタリーとしては異例の1000件以上に上った。 「20代から70代まで、幅広い年代から感想が寄せられました。あのシーンが良かった、このシーンが心に残ったと中身もまちまち。便箋に何枚も熱い思いを綴った方もいました。仲睦まじく、自然体で暮らす夫婦の姿を見て、観る人それぞれに心惹かれる場面があったのではないでしょうか。編集を極力控えたのは、そうしないと観る人の心の動きを邪魔してしまうと思ったからです」  そう話す佐々木さん自身も、田中さん夫妻には特別の思いを抱いている。 「自分の祖父母と重なっていたのだと思います。一緒に暮らしていた時期もあったのですが、体調を崩してからは仕事が忙しいのを理由に実家に帰ることができませんでした。自分は祖父母に対して孝行できなかった。大事な家族だと分かっていながら何もしてあげられなかった、という罪滅ぼしの気持ちがあるのかもしれません」(同)
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心がなければつながりもできない
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