さらに、ドアの開閉も新米車掌には大いにプレッシャーに成るという。
「日中も利用者の多い路線では完全に乗客の波が途切れることはなかなかありません。放っておくといつまでも客が乗り続け、ドアを閉めるタイミングを逸してしまう。ラッシュアワーにはホームの駅員が合図をしてくれるのでまだいいのですが、ホームの駅員がいない時間帯は難しい。ベテランになると『一瞬の間が見えるようになる』などと言いますが、不慣れな新米車掌だと閉めるタイミングを見つけられずに停車時間が伸びてしまうこともあるんです」
なかなかに奥が深そうな話だが、この「停車時間が伸びてしまう」ことに問題が潜む。
「停車時間が長くなると定時運行ができなくなり、ダイヤが乱れてしまう。もちろんその車掌は怒られる。事故ゼロはもちろんですが、定時運行を守ることもプロの車掌には厳しく求めらるので当然です。重要なのは、意識のバランス。安全が最優先で、定時運行は二の次というくらいの意識でなければ、なかなかブレーキはかけられません」(前出の元車掌)
今回のケースがどうだったのかは不明だが、報道によれば件の車掌はブレーキを躊躇したということは間違いなさそう。だからこそ、「迷わずブレーキを」という指導が徹底されていたかどうかに疑問が残るというわけだ。前出の元車掌は話す。
「JR東日本では首都圏の各駅に非常停止ボタンを設置して、利用者が押しても周囲の列車がすべて緊急停止するようになっています。ただ、地下鉄の場合は【駅間停車はしない】という大原則があるため、ブレーキの扱いは乗務員に委ねられる。それだけ責任が重いということでもあります。『非常ボタンが押されたらすべてに優先してブレーキを』という指導を繰り返ししていれば、今回のような事故は起こらなかったはず。指導体制を批判されてもやむを得ないでしょうね」