イチゴを観察する野中さん。このイチゴを毎年楽しみにしている子どもたちがいる
「赤いのあるよっ。これすごいでしょ」
1月下旬、野中さんのイチゴハウスに立ち寄った木村さんは、大粒のイチゴを目にしてひときわ大きな感嘆の声をあげた。木村さんは野中さんが自然栽培に挑戦する姿を、機会があるごとに見守り、励ましてきた。
野中から一通り説明を聞いた木村さんは、摘みたての完熟イチゴにかぶりついた。
「なんかもったいなくて……なにも言うことなし。あっ、うまい」
ハウスを後にする直前、木村さんは野中をねぎらった。
「すごいの。(イチゴの)艶が違うのよ。なぁ、よくここまでやってくれた!」
その後豊田市内で開かれた講演会で、木村さんは野中さんの“甘熟いちご”の感想をこう漏らした。
「イチゴというよりも、スモモの熟した感じの甘みがあった。(スーパーで売られている)一般のイチゴは正直いってすっぱい。それが当たり前だと思っている方が多いと思うんだけど、それは違うんです! イチゴの本当の甘さが野中さんのつくったイチゴに出ているなぁと思いました」
そして最後にこう付け加えた。
「(常識を超えて)バカになることはすごく難しい。周辺のことや仲間のことを考えないとならないので。でもそれを超えてバカになってみる。野中さんはイチゴづくりで(農薬や肥料を捨てて)バカになったわけです。だからいろんなことが見えてきたんです。いま自分が置かれている状況にとことんバカになって取り組んだら、すばらしい人生がその先にあるのではないかと思っております」
<文/田中裕司(ノンフィクションライター)>
たなかひろし●著書に
『希望のイチゴ~最難関の無農薬・無肥料栽培に挑む~』など)