その海外からの潜在需要が顕在化したのは、たんす屋各店舗におけるインバウンド需要だった。
外国人観光客の多い「たんす屋」浅草新仲見世店のブログでは各国の観光客が和服を着た姿がアップされている
「東京都内では浅草や銀座、新宿、日暮里にある『たんす屋』の店舗における売上のうち、約3割が外国人観光客向けです。こうした需要を受け、ここ2~3年で免税対応店を増やしていて、現在都内と京都を含め20店舗で免税に対応しました。観光で訪れたのをきっかけに、仕事関係の仕入れにつながることも多々あります。ドバイをはじめとした中東諸国やパリ、カナダ、北京のほか、中国や香港、台湾からもお客様がいらっしゃいます」
外国からの需要の約半数は、日本文化に関心があり、実際に着用するためのもので、この中には日本の伝統的な着物文化を正確に学びたいという需要と、それをもとに独自のアレンジを加えて着こなす、ファッションの一部としての需要とがある。残りの半数は、店内装飾やインテリアとして利用されるほか、「キモノ」をもとに制作をする、リメイクの素材としての需要もあるそうだ。
海外需要の高まりは、日本国内にも飛び火している。
「海外へ行ったときや海外出身の友人との会話などで、着物について聞かれたときに何も答えられず恥ずかしい思いをした、という日本人女性の声をよく聞きます。そういったご自身の体験をきっかけに、あらためて着物や日本の文化について学ぼうという需要は多いんです。とはいえ、新品の着物は高額だし、なにかと敷居も高い。そこで、比較的低価格な中古品やレンタル、着付け体験から始めてみる…。利用者の半分以上の方が『たんす屋に出会っていなかったら、着物に触れていなかった』とおっしゃることからも、着物に対する潜在的な需要は無限にあると確信しました。こういった日本の若者の潜在需要発掘のため、2015年からはインターネットを利用したキャンペーンを多数実施しています」
具体的には、Yahoo!やGoogleの検索画面に催事の広告を掲載し、1000円割引のクーポンを発行した。ネット広告をもとに、若い女性客をリアル店舗へ呼び込む狙いである。着付け体験のネット予約も行なうなど、「ネット時代をリードする」という中村氏の意気込みが伝わってくる。
また、「ハードオフ」などのリサイクル大手と提携することで、地方でたんすの中に余っている「キモノ資源」を”発掘”するチャンネルを開拓することなど、従来の和装業界では考えられないほど多角的・先進的な試みを行っている。