東芝家電部門買収の中国企業「美的集団」が直面する今後の課題

家電業界以外にも進む中国企業による大型買収

 中国企業におる大型買収は家電業界にとどまらない。中国化工集団によるスイス農薬大手シンジェンタ、イタリア・タイヤメーカー・ピレリの買収。中国万達集団の米映画制作大手レジェンダリー・エンターテイメントの買収など大型案件が相次いでいる。先日、中国のオピニオンリーダーとして知られる長江商学院の項兵学院長を取材したが、国際的ブランド構築を進める中国は今後、国内企業の育成に加えて買収によってブランドを手にしていくと断言していた。これからも中国企業による買収ラッシュが続くことになりそうだ。  もっとも海外企業の買収が予想通りの成果をおさめることができるかは未知数だ。  中国企業の資金力と機動力を生かしつつも、日本企業の持つ技術力が発揮される形になれば理想的だが、空中分解したとしてもおかしくはない。実際に中国のSNSを見ると、「東芝を買収するなんて!中国すごい」「この調子でトヨタも買っちゃえ」といった無邪気な喜びの声もある一方で、「東芝は中国企業になるの?じゃあもう東芝製品は絶対に買わないわwww」「東芝好きだったのに。残念」といった声も。せっかくのブランド力が失われてしまえば意味がない。  鍵を握るのは中国企業が日本的もの作りを尊重できるかどうか。今年の全国人民代表大会で李克強首相は「よいものを突き詰めていく工匠(職人)精神を養わなければならない」と発言している。  “安かろう悪かろう”を脱却し、日本企業の強みを取り入れて技術力とブランド力を高めることができるのか。大型買収の裏側で中国は新たな課題に直面している。 <取材・文/高口康太 photo by Liang Pei lin on Wikimedia Commons (CC BY 3.0) > たかぐちこうた●ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
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