ブラジル国民からも信望を集めたルラ前大統領であったが、ブラジル最大の国営石油会社ペトロブラスに絡む政治汚職疑惑が〈2014年3月に明るみになった〉。ルラの政権下から始まった汚職である。同社のプロジェクトを受注した企業が金額を水増しして請負い、その資金が政治家に渡されていたということが発覚したのだ。
検察側の捜査は2013年7月にクリチバ市で始まった。そこでペトロブラスと関係していた企業の資金洗浄が摘発されたのだ。その後も検察側の捜査は進み、2015年3月には49人の政治家と関係当局への捜査が最高裁より許可された。その大半はルラ前大統領そしてルセフ大統領を支える政府与党である労働者党や連携している政党の議員と、彼らの党事務所などである。捜査の結果、政治家を含めペトロブラスのプロジェクトを頻繁に請け負っていた最大手建設会社オデブレヒト社の社長ら企業経営者が続々と逮捕された。(参照「
La Tercera」)。
2004年から2012年までに横領された汚職金はおよそ80億ドル(9120億円と検察側は推測している。ルラ前大統領が政権に就いたのは2003年からである。そして2011年からルセフ大統領に政権がバトンタッチされた。両者とも労働者党出身である。同じ政党議員が賄賂を貰っていたというのを両者が知らないはずがないと検察は見ているのだ。(参照:「
El Pais」)。
ルラ前大統領に捜査の手が及ぶのは時間の問題とされていた。しかし、今回検察側が彼を拘束してこの事件について尋問することに踏み切る判断を下した要因は2つあるようだ。
ひとつは2月22日にルラとルセフの大統領選に参謀役を勤めたショアオ・サンタナが逮捕されたことである。サンタナは両名が最も信頼していたひとりで、選挙参謀という立場から選挙資金がペトロブラスより流れていたことを知っている人物だとされていた。
そしてもうひとつは既に逮捕されている労働者党の上院議員で上院議長も勤めた経験をもつデルシディオ・アマラルが3月3日にルラとルセフがペトロブラスの汚職に絡んでいたという証拠を彼の罪状を軽減するのと交換で提供することで検察側と合意したことだ。検察側では表立ててこの合意を否定する為に、両者が如何にペトロブラスに影響力をもち、また汚職の受給者であったかということを詳細に記述したレポートをアマラルに書かせ、雑誌「IstoE」に掲載させたという。(参照「
Bolsamania」)。