バンコクのあるコンサルティング会社の社員が話す。
「労働許可証の有無が足の引っ張り合いで最もいいネタになるという事情を知らなかったのか、ある美容師は労働許可証を持っていないことを公言して働いていました」
タイで外国人が労働許可証を取得するにはひとりあたり200万バーツ(約670万円)の資本金用意とタイ人を4人以上雇用する必要があった。もちろん、抜け道はたくさんあるし、4人雇用の条件も2015年になって不要になっているようではあるが、それでも個人が小規模でタイで起業するにはまだまだ面倒が多い。関係省庁の役人は重箱の隅をついて難癖をつけ、まるで労働許可証の発給を阻止しようとしているかのような振る舞いをする。そのため、元々発給条件を満たせていないだとか、役人との手続きが面倒だからと日本人を雇用しながら労働許可証を申請しない中小企業もあるほどだ。コンサル社員は続ける。
「美容師は労働許可証を発給してもらえなかったのか、あるいはあえて不要と判断したのかわかりませんが、とにかく持っていないことを公言していました。しかしある日、警察などの合同捜査班に突然踏み込まれ、そのまま強制送還となりました。ただ、不法就労で刑務所に入らなかっただけマシですし、はっきり言って自衛できなかったその美容師も悪いところはあると思います。しかし、今でもなぜ踏み込まれたのかというのがわかっていません。噂レベルでは、その美容室を妬んだ同業者かタイ人の元従業員が通報したとされています」
こういった足の引っ張り合いは飲食店でもよくあるという。表面上は仲よくやりながら、タチの悪い経営者は何気なく相手の弱点を探り、例えば日本人従業員に労働許可証がないことや酒類販売許可証が出ていないだとか、営業時間が法で認められている時間を過ぎているだとか、小さな問題点を裏で警察に密告するのだ。
在留邦人が増え、日本人同士の競業も増えてきたタイの日本人社会。もちろん労働許可証なしに働くほうが悪いのだが、同じ日本人同士だとはいえ決して油断できない状況になっているのである。
<取材・文/高田胤臣(Twitter ID:
@NaturalNENEAM)>