在タイ邦人社会に増える「日本人同士の足の引っ張り合い」

世界都市となったバンコク(photo by Ahoerstemeier CC BY-SA 3.0)

 2000年の時点でタイ在留邦人数は2万1154人に過ぎなかったが、2014年10月1日の時点でタイ在留邦人数は2000年の約3倍、6万4285人にもなっている。  この在留邦人数は、国別でもアメリカ、中国、オーストラリア、イギリスに続いて第5位の人数となる。アメリカや中国、オーストラリアは広大なので各都市に分散していると思うが、タイの場合、その大半がバンコクおよび近郊に集中する。そのため、日本国外における日本人の密度はトップクラスと言っても過言ではないレベルだ。

就労制限がある中での「抜け穴」

 このように日本のいい悪いも含めて日本社会がそのまま反映されるバンコクでは様々な業界で足の引っ張り合いも起こっている。  タイ政府は自国民の雇用確保のために外国人が就業できない業種を39種定めている。しかし、技術供与や雇用促進などタイに貢献する場合に限っては労働許可証は発給される。  そのひとつに美容師がある。タイ人と日本人ではファッションセンスに大きな違いがあり、どれほど有名なタイ人美容師でも日本人には納得のいかない髪型になることが多い。しかし、日本人がこれだけ増加した現在、日本人だけを顧客ターゲットにしても商売が成り立つため、日本人経営の美容室が増えている。就業制限はあるものの、美容室ができること自体はタイ人の雇用に繋がるし、髪を切る技術が普及することもある。そのため、経営者もしくは指導者というポジションならば日本人でも労働許可証を取得できるのだ。  ただ、その許可証は接客を許していないため、建前上は美容師として店に立つことはできないのだ。しかし、タイ人美容室なら高くても350バーツ(約1160円)のところ、日本人経営だと2~3倍はするほど割高な日本人経営の店に行くのだから、日本人に髪を切ってもらえないとわざわざ行く意味がない。それゆえ、「技術指導」という名目で日本人美容師が接客することも暗黙の了解として見逃されてきた。もちろん、この背景には、6万人以上の日本人の滞在許可についていちいち取り締まることは実質的に不可能ということもあった。  しかし、2015年にちょっとした事態が発生した。
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日本人同士の「密告」が横行
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