この暗殺事件の影響も深刻だ。現在32の自治州から成るメキシコで今年6月に予定されている12の自治州の州知事及び州議会議員選挙にカルテルが絡むことが懸念されているのだ。その中でもタマウリパス、ベラクルス、シナロア、チチュアナ、ドゥランゴの5つの州はカルテルと最も関係している自治州であるという。「
El Pais」紙国際面の記事を引いて、各州がカルテルと通じていることを証明する一部を以下に紹介する。
タマウリパス州:2010年にトーレス・カントゥ州知事候補がカルテル組織を擁護しなかったとして暗殺された。その後、彼の弟が立候補して61.5%の支持を得て当選。
ベラクルス州:ドゥアルテ現州知事がカルテルと関係している疑いが強い。この数年で同州では15人のジャーナリストが暗殺された。
シナロア州:カルテルで最も勢力のある通称「チャポ」が支配する州である。2010年の州知事選挙で候補者のヘスス・ビスカラ候補はカルテルと関係しているという容疑で告訴された。
チチュアナ州:カルデロン前大統領がカルテルと最も激しく戦った州である。2013年に州知事候補のハイメ・オロスコが暗殺された。
ドゥランゴ州:カルテルと警察が激しく攻防した州で、その被害を逃れて身の安全を求めて数十家族が渓谷に避難した。
メキシコは元々麻薬の中継地であった。南米のコロンビアで栽培されていた麻薬の仲介をメキシコが担い、それを米国市場に密売していた。その後、メキシコが麻薬の生産に直接タッチするようになり、メキシコのカルテル組織が発展した。彼等は麻薬の生産そして密売以外に人身、武器、原油などの売買、更に誘拐などから資金を調達している。
カルデロン前大統領が2006年に大統領に就任した時には政府の関係当局では”9つのカルテル組織と43の分派”の存在を認めていたという。中でもチャポ・グスマンが仕切っている「シナロア」と「ヌエバ・ヘネラシオン」そして「ロス・クイニス」が一番勢力のあるカルテルだという(参照:「
エクセシオール」)。
フォックス大統領(2000-2006年)そしてカルデロン大統領(2006-2012年)の政権下でもカルテルとの戦いは続けられた。特に、カルデロン大統領の治政では、かなり激しくカルテルと戦った。しかし、〈「あの時に、ボスのチャポ・グスマンが組織するカルテル『シナロア』だけは麻薬の摘発などは他のカルテル組織に比べより緩やかだった」〉と指摘するのはジャーナリスト アナベル・エルナンデスさんだ。彼女曰く〈「シナロアは好きなだけ麻薬の生産と販売を行なっても良い。その代わり、他のカルテルのメンバー情報などを提供する」という交換条件が政府の関係当局とあった〉というのだ。(参照:「
HUFFPOST VOCES」)。