価格と価値は全く別もの。株投資にバーゲンセールの感覚を持ち込むのは大損の元

 こんにちは。独立系ヘッジファンドのファンドマネージャー・絵馬です。  夏といえば海ですね。海にいくと水着のギャルがたくさんいます。ギャル達は丸井とかパルコとかで水着を買うのでしょうかね。百貨店では夏になるとサマーセールを開催します。サマーセールでは30%や40%、中には80%オフなんてのもあります。 セール 一見お買い得に見えるセールですが、そういったセール品を買うことは果たして本当にお得なのでしょうか。  あなたは50%オフのサマーセールで1万円を払ってワンピースを買うとします。このワンピースは元々2万円だとのことです。 「元々2万円で、それをサマーセールで1万円で買ったから、1万円得しちゃった。いえーい。1万円分得したからマツエクでもいこうかな。私のまつ毛、天まで伸びろ~。」  元々2万円のものを50%オフの1万円で買ったから1万円得した。その考えは正しくありません。  なぜなら2万円というのは価値ではないからです。 「価格(Price)とは支払うもの、価値(Value)とは得るもの」(ウォーレン・バフェット)  このときあなたが支払う価格(Price)は1万円で、得たものはワンピース(Value)です。この買い物がお得か否かを判断するのは、手に入れたワンピースが1万円以上の価値がある場合に限ります。  どういうことでしょうか。ここでワンピースの価値を分析してみましょう。  ワンピースに内在される価値は、布の素材価値、製造価値、デザイン価値、ブランド価値、これを着ることによってモテ度が上がる価値、こんなところでしょうか。 布の素材価値:1,500円 製造価値:500円 デザイン価値:0~5,000円(??) ブランド価値:0~5,000円(??) モテ度が上がる価値:0円

良い買い物か悪い買い物かに元値は関係ない

 適当に算出しましたが、要するにモノとしての原材料や製造コストの価値は2,000円程度で、デザインやブランドなど無形の価値が0~10,000円程度と想定されるということです。  デザインやブランド価値の合計が1万円であるとすれば価値は1万2千円であり、1万円の支払いに対して2000円お得であるため、良い買い物であるといえます。  デザインやブランド価値が存在しないとすれば価値は2,000円であり、1万円の支払いに対して8000円の損失であるといえます。  何が言いたいかというと、価値(Value)というのはセール前の2万円のことではなく、支払って得たワンピースそのものが価値であるということです。その価値がいくらかということを考えて良い買い物か悪い買い物かを評価するものであって、元値の2万円はもはや関係ないということです。  買い物でも投資でも「価格(Price)<価値(Value)」という状況であることを確認した上で意思決定をすることが大事です。  ちなみにこのワンピースを着てモテ度が上がる価値は0円です。なぜならかわいい服を着たらモテ度が上がるというほど世の中は甘いものではないからです。アクセサリーとかもあんまり意味ないです。  よくある女性の勘違いですが、男を興奮させようとしてガーターベルトとかいわゆるセクシーな下着を着ていると男の興奮度は激減します。気まずい空気になること間違いなしです。

株式投資における、PriceとValueとは何か

 投資で成功するためには価格(Price)は価値(Value)よりも常に低いことが必要となります。  価格(Price)<価値(Value)の大原則を必ず守りましょう。  Priceは明らかです。株価を見ればわかります。時価総額を求めたければ株価×株数を計算すれば算出されます。(そもそも算出しなくてもどこかに計算結果が書いてあります。)  ところがValueに関しては簡単にはわかりません。どこにも書いてないので自ら計算する必要があります。明らかに誤ったValueの考え方は過去の株価推移から考えることです。これはサマーセールで元値より割安だから良い買い物をしたと考えることと同じように間違っています。  企業についての価値評価はどうやって考えるべきでしょうか。そもそも企業の価値とは一体何のことでしょう。  企業はあらゆるものを保有しています。不動産、機械、工場、研究所、製品在庫、原材料、車両、現預金、手形、社債、借入金、ビジネスモデル、ブランド、歴史、知名度、顧客、人材、子会社、経営陣、営業権、ライセンス、事業免許、特許、海外ネットワーク、労働組合、売買契約、その他色々あります。  非常に複雑化した企業という存在を評価するのに、例えば良い人材がいるだとか良い商品があるかなどといった小さな点を見て評価してはいけません。大局を捉える必要があります。木を見て森を見ずという状況ではいけません。B型だから自己中だとかすぐに考えてはいけません。

企業価値は収益価値と資産価値の2つから成る

 大局を捉えるとは、シンプルに考えることです。企業の価値は収益価値と資産価値しかありません。  例えばブランド価値などはそれが収益を生むのであれば収益価値に含まれるものであり、遊休不動産や余剰現金などは資産としての価値と捉えるといった方法で、企業に含まれる全てのものを収益価値と資産価値の2つの価値に分けて考えるということです。  具体的な企業の決算書から考えてみましょう。

実例から考える企業価値分析と投資決定

 これは過去に私が投資したS社の実例です。  S社は東京に本社を構える半導体や電子機器の商社です。S社の直近5期の収益状況は純利益が22億円、13億円、14億円、5億円、11億円と推移し、5期平均純利益は13億円となります。簡便的に純利益の10倍が収益価値とすると130億円と算出されます。  成長率を考慮したい、割引率をより小さくして考えたりするのであれば、より大きな価値とみなすこともできますが、ここでは直近5期平均の簡便的に10倍とします。  ここで重要なことは、いずれにせよ収益価値にはある程度の主観が入ることは避けられないということです。なぜならば収益価値とはまだ実現していない未来の価値を算出するものだからです。  人間でいうところの翌年以降の年収を評価する行為であり、勤務先の業績が良くなればボーナスが増えるかもしれませんが、業績が悪くなれば減給されることやリストラ対象となることもあり得るのです。  一方、資産価値について、S社は現金112億円を含む流動資産が763億円、固定資産が65億円、負債総額が230億円であり、純資産は599億円でした。  この資産のうち、収益価値と重複すると考えられる固定資産65億円と流動資産に含まれる商品在庫227億円、その他詳細が不明な資産36億円を控除すると、修正純資産は271億円となります。  これは収益価値と比べ非常に客観的な価値評価であります。資産価値とは過去の企業活動によって得たものの総体であり、実存する価値であるからです。人間でいうところの貯金額から各種ローン残高を控除した額にあたるものです。 企業価値=収益価値(130億円)+資産価値(271億円)=401億円  簡便的にこのように計算することができます。  この値は特に収益価値に関しては保守的な捉え方をしており、現在のTOPIX平均PERは約17倍ですから、221億円と評価するのが一般的かもしれません。その場合の企業価値は492億円と評価できます。  このS社に投資したとき、時価総額は184億円でした。  一般的には492億円の価値、保守的に捉えても401億円の価値に対して、支払った価格が184億円であったということです。 時価総額(Price=184億円)<企業価値(Value=401億円~492億円)  これは価格(Price)<価値(Value)の原則に当てはまる投資であることがわかります。  ちなみにこのS社への投資のその後は、時価総額が1年後に202億円(+9.9%)、2年後に290億円(+57.6%)、2年半後に360億円(+95.7%)と上昇しました。

企業価値に対して割安な価格で買うことが投資の成功の大原則

 繰り返しますが、価格(Price)とは支払うもので価値(Value)とは得るものです。  そして価格(Price)<価値(Value)の大原則に従って投資をすれば、買い付けた時点で投資の成功は決まったようなもので、あとは価格が適正になるのを釣りでもしながら待っていれば良いだけです。  また先のS社の例でさらに重要なことは、価格(時価総額=184億円)が企業価値より小さいことのみならず、資産価値(202億円)よりも低い状態であるということです。S社の資産価値(202億円)とは現金性の低い資産を控除した純粋な清算価値で、仮に会社を清算するとして間違いなく現金化できる資産のみで全ての負債を支払った後に残る現金価値のことです。この値より低い価格で取引されていたということは、「異常な割安」であることは火を見るより明らかです。  このように企業価値よりも大きく割安で、かつ保守的に捉えた清算時の現金価値をも下回る価格で購入した株式の安全性は極めて高いもので、それに加えて大きな株価上昇も見込め、ローリスク・ハイリターンな最も魅力的な投資対象であるといえます。  先のS社に読者のあなたも同時期に投資していたならば、2年半くらい寝て待っているだけで2倍程度に増えていたということです。  次回以降は、より正確な企業価値分析の方法とこのようなバーゲン銘柄の見つけ方についてお話ししたいと思います。  それではまた。【了】
【ジョン・ポール・絵馬(じょん・ぽーる・えま)】 独立系ヘッジファンドのファンドマネージャー。 東京大学卒。外資系投資銀行で勤務後、独立系ヘッジファンドでファンドマネージャーに就任。運用責任者として日本市場に対する投資を行う。好きな音楽はビートルズ。 記事提供:ムーラン (http://www.mulan.tokyo/) 新世代のビジネス・ウーマンのためのニュースサイト。「政策決定の現場である霞が関、永田町の動向ウォッチ/新しいビジョンを持つ成長途上の企業群が求める政策ニーズを発掘できるような情報/女性目線に立った、司法や経済ニュース」など、教養やビジネスセンスを磨き、キャリアアップできるような情報を提供している
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