大きな事故にはならなかったが、架線が切れて停電した東北新幹線(photo by Toshinori baba PublicDomain)
鉄道の安全を脅かすような事故が相次いでいる。4月3日には青函トンネル内を走行中の特急列車から発煙。乗客129人が5時間以上かけてトンネル内から避難する事態となった。4月12日にはJR山手線の架線支柱が倒壊して長時間運転が見合された。タイミングが悪ければ倒壊した支柱と列車が衝突して大惨事になりかねない事故だった。また、4月29日には東北新幹線で架線が切れて停電となり、4時間半にわたって不通になるトラブルも起きている。100人以上が犠牲になった2005年の福知山線脱線事故から10年という節目を迎えたが、果たして鉄道の安全は守られているのだろうか。
「実は、日本の鉄道は世界的にみると超のつくほど安全です。実際、乗客が死亡するような事故は福知山線の脱線事故以来起きていません。また、これは有名な話ですが、新幹線は開業以来一度も乗客死亡事故を起こしていない。海外の高速鉄道を見ても、これだけ安全な乗り物はないと断言できます」(鉄道系コンサルタント)
確かに、時速300kmを超える速度で走る新幹線の安全対策は万全だ。2011年の東日本大震災では、27本の列車が東北地方を走っていた。しかし、試運転列車1本が仙台駅構内で脱線したのみで、それ以外全ての列車が安全に停止している。これは、地震の初期微動を察知して自動的に送電を止めることで大きな揺れが到達する前に列車を停止もしくは減速させるというシステムが見事なまでに機能した結果。決して偶然ではなく、日本の高い技術力が導いたものなのだ。
だが、同時に最近の鉄道業界の動きを見ると、一概に“安全は守られている”とは言えないのも事実。山手線の支柱倒壊で犠牲者が出なかったのはまさに偶然以外何物でもないし、昨年冬の大雪時に東急線で起きた衝突事故もラッシュ時ならば大惨事になっていただろう。原因究明は運輸安全委員会の調査・報告を待つ必要があるが、いずれの事故も技術面・システム面の問題よりもそれを運用する側に問題があったとする見方が濃厚だ。
「ハッキリ言えば、いくらシステムを追及しても人が正しくそれを運用しなければ事故は防げません。JR北海道の事故と不祥事の続発などを見ても、そのあたりの意識が希薄になっているのは間違いないでしょう」(前出のコンサルタント)
こうした状況を鉄道事業者はどのように捉えているのだろうか。ある大手私鉄の関係者は「“安全神話”が油断を生んでいる」と話す。
「新幹線が事故を起こしていないことや東日本大震災で鉄道利用者に犠牲が出なかったことを受けて、“鉄道は絶対に安全な乗り物だ”という安全神話が生まれてしまった。確かに、安全性を高める技術開発は飛躍的に進歩していますし、海外の鉄道と比べれば事故の数も遥かに少ない。ですが、それでも鉄道は人が動かしているもの。いくら努力をしても100%事故ゼロを実現するのは難しいことです。ただ、“安全神話”のおかげで利用者も事業者も『事故は起こらないだろう』と無条件に思い込むようになっていると感じます。過去の事故事例などを踏まえた社員教育はしていますが、どこかで自分とは関係ないと思っているような印象もある。山手線の支柱倒壊で構造計算をしていなかったというのも、『これくらい大丈夫』という根拠のない油断が現場に蔓延していたからではないでしょうか」
【中編】「公共性を無視した批判は鉄道インフラを危うくする」に続く⇒http://hbol.jp/37871
<取材・文/境正雄>