公共性を無視した批判は鉄道インフラを危うくする

鉄道の安全を脅かすような事故が相次いでいる。4月3日には青函トンネル内を走行中の特急列車から発煙。乗客129人が5時間以上かけてトンネル内から避難する事態となった。4月12日にはJR山手線の架線支柱が倒壊して長時間運転が見合された。タイミングが悪ければ倒壊した支柱と列車が衝突して大惨事になりかねない事故だった。また、4月29日には東北新幹線で架線が切れて停電となり、4時間半にわたって不通になるトラブルも起きている。100人以上が犠牲になった2005年の福知山線脱線事故から10年という節目を迎えたが、果たして鉄道の安全は守られているのだろうか。 ⇒【前編】「世界一安全な日本の鉄道になぜ最近事故が多いのか?」 http://hbol.jp/37865

鉄道の安全は「タダではない」という現実

 そもそも鉄道の歴史は事故の歴史でもある。1830年に世界で初めて実用的な商用鉄道として運行を開始したリバプール&マンチェスター鉄道は、記念すべき開業当日に“世界初の鉄道事故”を起こしている。その後も幾多の事故の経験を踏まえてシステム面・技術面に改良が加えられて今の安全な鉄道になったのだ。もちろん今も鉄道事業者は事故を起こさないシステム作りと職員教育に力を注いでいる。

2011年の石勝線の列車脱線事故からまだ4年。再びあわや列車火災という事態になったJR北海道

「安全はタダではないんです。莫大な時間とお金をかけてシステムを作り、人を教育してようやく守られるもの。それはどの鉄道会社も同じです。でも、利用者から見ると安全はタダだと思ってしまいがち。もちろん、鉄道が安全なのは当たり前のことですし、そうあるべきです。でも、高い安全性を維持するのは並大抵のことではない。それをわかってもらいたいというのは正直なところです」(前出の大手私鉄関係者)  例えばJR九州では、今年度中の株式上場が見込まれる一方で、国から経営安定基金の拠出を受けていたり、市町村税の減免措置を受けている。これに対して「国や自治体の支援を受ける立場なのに上場はありえない」という批判の声がある。しかし、黒字経営の見込めない九州の在来線を安全に運行するためには、莫大な資金がかかる。特にJRは“純民間資本”の大手私鉄各社とは異なり、著しく採算性の悪い路線を多く保有しており、これらの路線を「採算が取れず経営の足かせ」と切って捨てるわけにはいかないという事情もある。こうした事情を無視した批判は、鉄道の安全性や地域の足という公共性を踏まえていない暴論に他ならない。 「“安全”には莫大なお金がかかる。それを無視して上場を批判するならば、最初から民営化などしなければいいんです。民営化して民間企業になれば、上場を目指していくのは当たり前。速達化などによるサービス向上や経営の多角化、さらにはコストカットなどの経営努力が求められます。でも、一方で公共交通機関として不採算路線の維持も必要だし、安全への投資も欠かせない。JR東日本や東海のような“ドル箱”を持たないJR各社が、厳しい環境に置かれるのは当然とも言えます」(前出のコンサルタント) ⇒【後編】「事業者だけでなく利用者も過信する鉄道の『安全神話』」に続く http://hbol.jp/37872 <取材・文/境正雄>
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