◆「フランクフルト学派」
これは原文は「
文化マルクス主義」だが、日本語訳には「
フランクフルト学派」とした。なぜならば日本では、この文化マルクス主義、つまりフランクフルト学派のことなのだが、この陰謀論というのがフランクフルト学派の名のもとに、日本ではけっこうな知識人でも真面目に語ったりしているからだ。「コミンテルン陰謀論」とか「WGIP(ウォーギルトインフォメーション)陰謀論」とセットになっていることが多いようだ。
ナチス時代にアメリカに亡命してきたユダヤ系の学者たちが広めた文化マルクス主義が、現在の
ポリティカル・コレクトネスなどの元祖であって、それはアメリカや日本を破壊するための工作なのだ。これが文化マルクス主義=フランクフルト学派陰謀論です。日本の場合は
GHQの「
ウォーギルトインフォメーション」による洗脳とかとセットになっていることも多い。
フランクフルト学派が文化的な影響力を与えたというのは間違いない話であろうが、じゃあそれが革命思想とか破壊思想かといえばそんなことは決してなく、むしろ穏健な社民主義と結びつくことのほうが圧倒的だ。
ポリティカルコレクトネスの行き過ぎが議論になることも多い昨今だが、これらが実際に様々な不平等や不実を正してきたのは間違いない事実だろう。
それがアメリカや日本を破壊するという陰謀とされるのは、自分達の考えている理想と違うものはすなわち破壊なのだという、
自分達のかなえられない願望の裏返しなだけである。
◆「5G」
◆「反ワクチン」
◆「新型コロナは生物兵器」
定番陰謀論である。科学というものは重要だと思う……とだけ言っておこう。すべて日本でも信奉者が多数いる。決して邪険にはせず優しくしてあげたほうがいいかもしれない。そしてそっと間違いを指摘してあげよう。それ以上は自分で気づくまで何をやっても無駄だろう。
そのうえで言いますと、ワクチンに対する不安はもっともなことではある。
しかし、自閉症児の原因とか、さらにそこから飛躍してその
ワクチンがユダヤ人による人類白痴化計画のためにつくられているとか、
ワクチンの中にマイクロチップが混入されているとか、さすがにそういうのは
世のなかのためにならない珍説の類いである。
◆「フィンランドは存在しない」
フィンランドは、日本とソ連がでっち上げた架空の国で、バルト海の漁業を独占するためにつくられたんだそうな。そのため今でもシベリア鉄道でその魚を今でも日本に運んでいるということらしい。日本の家庭のお魚のために、そこまでの壮大な取り組みが行われていたとは驚きである。
◆「なぜマットレス店はあんなに多いのか」
マットレスファームという、マットレス小売チェーン店が、交差点の角すべてに4店あるのを見かけたが、マットレスなど何年に一回しか買い換えないのに、売れるはずもなくおかしい。マットレスファームは実はマネーロンダリングの拠点なのではないか・・・という陰謀論。
ちょっと前に『
さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』(光文社新書)という本がベストセラーになっていたことがあった。さおだけ屋に限らず、町中の布団屋や家具屋やミシン屋はなぜ潰れないのかというのもネットにはいろいろ書かれているのである。
この答えは実に簡単で、
買い替え需要が数年や数十年に一度という商品はたいがいは粗利が高く、多売薄利を見て繁盛していると判断している人には不思議に思えるだけなのだ。業務用や通販などの倉庫の代わりに展示してあるというのもあるそうだ。まあ確かになんで潰れないのか不思議にもなるのはわかるが……。
◆「ソイボーイ」
日本語直訳で「
豆男」。日本ではこのソイボーイを紹介するのに、男性らしいガツガツとした恋愛感情がない「草食男子」や、オタク男子の「チー牛」のネットスラングを例に出しているようだ。しかし、これはちょっとニュアンスとして違う。これはずばりゲイっぽい男性のことを指すといっていいだろう。
豆ばかり食っているような人間は男らしくないというところから来るわけだが、それだけではすまないのが、アメリカ陰謀論の世界のディープなところ。
陰謀論のデパートとして「サンディフック銃乱射事件は政府のでっちあげ」で出てきた
アレックス・ジョーンズがここでも登場する。
曰く、もともとアメリカ軍が敵対する軍隊の戦闘力を減らすために、男性が同性愛に走るようにプログラムされた大豆をつくった。男性同士が恋愛すれば、軍隊は混乱するだろう。しかし、それがなぜかアメリカの大豆にまで混入して、そのために男性の同性愛者が増えたのだ。そうでなくとも男らしいガッツのあるヤツがすくなくなってきたろう?
アメリカがつくった「食物兵器」でアメリカがやられてしまっているという、なんともおまぬけな話だということなのだが、これがネットでは大流行。こうして大豆陰謀論のソイボーイが出来上がったというわけである。