FLoC(Federated Learning of Cohorts)は、興味ベースのグループをAIによって作る技術だ。広告を出稿する企業は、個人を追跡するのではなく、このグループに対して広告を出すことになる。大量の情報を持ち、AIに力を入れている Google ならではのアプローチだ。
これまでは、ユーザーがWebで閲覧していた情報を追跡することで、どんな広告を出すか決めていた。より詳細に個人を追跡することで、広告の精度を上げてきた。
こうした技術は、個人のプライバシーを丸裸にするとともに、詐欺や不正な攻撃の糸口にも繋がる。広告のためにプライバシーの窓を開きっぱなしにするということは、悪意を持った人間が自分の部屋に監視カメラを置くのを許容するようなものである。
FLoC は、個人の情報を追跡しないように、サンドボックス化する。その情報源として、長期的に記録された閲覧履歴ではなく、最近の閲覧履歴を利用する。そして個人ではなく興味を持った集団として、広告主が広告を表示するグループを指定できるようにする。
自分がどのグループに属するかはWebブラウザ上で計算するので、サーバーに閲覧履歴を送ることはない。計算のためのデータは、ブラウザに同梱したり自社のサーバーから取ってきたりすることになる。
この技術を紹介する同社のブログの文章には、「Chrome は独自の FLoC サービスを運用していますが、他のブラウザは異なるクラスタリングアプローチを採った FLoC を実装し、独自のサービスを運用する可能性があります」と書いてある。
しかし、実際に大規模に似たことができる企業は限られるだろう。また、現在の閲覧履歴の解析以上に、個人の信条や性癖が暴かれるという懸念もある。既存の個人追跡の技術と組み合わせることで、さらに多くの情報を提供してしまう可能性もある。特定の集団に政治広告やそれらに類する広告を流すことで、分断や差別を煽る危険性も存在する。
FLoC は、個人のプライバシーを守りながら、広告主に利益を提供できることを謳っている。また、そのことでサイトの運営者にも多くの利益をもたらすことを約束している。
ここに Google の欺瞞がある。Webサイトに広告は必要なのか? Google の最大の収益源である広告をいかに稼ぐかが、個人のプライバシーと天秤に掛けられている。広告で収益を上げることが全ての前提となっている。
Google を傘下に持つ米 Alphabet の2020年第4四半期(10~12月)の決算によると、Alphabet 全体の売上高は568億9800万ドル、Google 検索、YouTube その他の広告全体の売上高は461億9900万ドルで、実に81%を占める(
ITmedia NEWS)。
Google が広告企業でなければ、こうした発想は出てこないのではないかと感じる人は、多いのではないか。
Web広告は、非常に大きなビジネス分野だ。2020年の日本の広告費は、6兆1,594億円。インターネット広告費は、マスコミ四媒体広告費に匹敵する2.2兆円規模で、総広告費全体の36.2%となっている(
電通)。
世界市場で見れば、59カ国・地域の2021年の世界の総広告費は、約5,790億ドル(62兆4822億円)になると予測されており、デジタルのシェアは50%となっている(
電通グループ)。
個人のプライバシーは、これらの広告費と秤にかけられているわけだ。
より商品が売れるように、個人の興味を探ろうとする試みは、イタチごっこになっている。Cookie から得られる情報を制限する試みは継続的におこなわれているが、Webブラウザから得られる様々な情報を統合して、ブラウザー・フィンガープリント(ブラウザの指紋)を作り出して、個人を特定する試みが続いている(
カスペルスキー公式ブログ)。
FLoC の導入がおこなわれたとしても、多くの人は、あの手この手で個人の履歴を暴き続けるだろう。
Web広告が大きな市場であり続ける限り、こうした問題は今後も続くと予想される。
<文/柳井政和>