なぜGoogleの新広告技術は、多くのWebブラウザから拒否されたのか?

テクノロジーとプライバシーのジレンマ

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 Webブラウザの Cookie という技術は、閲覧したページの情報を一時的に保存したり、情報をサーバーに送受信したりできるものだ。たとえばWebサイトの運営者は、再訪問したユーザーを知ったり、ユーザーが選んだ商品情報をカートに記録させたりできる。  この Cookie は、ネット広告の分野で、ユーザーを特定して行動を追跡・監視するために用いられてきた。次々にWebページを移動するユーザーを追いかけ、どのページを見ており、何に興味を持っているのか探り出すためのツールとして重宝されてきた。  近年、この Cookie はプライバシーの観点から懸念が表明されており、制限が加えられ続けている。また、今後この技術をどうするのか、ずっと議論が続けられてきた。  検索エンジンとWebブラウザの最大手である Google は、Cookie の代替技術として FLoC(Federated Learning of Cohorts)を提唱して開発してきた(Google Developers Japan)。Google は、FLoC は Cookie を置き換える技術であると喧伝しており、今年の3月30日に試験運用を開始すると発表した(窓の杜)。しかし、Google 以外のWebブラウザや検索エンジンの開発元などが、次々と反対を表明している。

Googleの広告技術FLoC、多くのWebブラウザが拒否

 Mozilla のスポークスパーソンは、Firefox の計画について、現時点では実装予定はないと答えている(The Verge)。Vivaldi は「Googleのこのデータ収集の新たな試みは悪質です」として、拒否を表明している(Vivaldi Browser)。Brave は「FLoCはWebユーザーに有害」「FLoCの最悪の側面は、プライバシーに配慮していることを装って、ユーザーのプライバシーを著しく損なう」と非難しており、削除するとしている(Brave Browser)。  Microsoft の Edge もこの技術を無効にしており、事実上の拒否を示している(TechCrunch Japan)。元々個人情報の追跡に反対している Apple の Safari については、WebKitエンジニアの John Wilander 氏が、実装するとは言っていないと答えている。  検索エンジンの DuckDuckGo は、FLoC を無効にする Chrome 拡張機能を更新するなど、対策を進めている(Search Engine Journal)。  オープンソースのブログソフト WordPress では、FLoC をセキュリティ上の懸念として扱い、対策を講じると発表した(Make WordPress Core)。  Webに関わる多くの技術者たちが、Google の FLoC は問題だと考えており、アクションを取っている。Google 自身は、個人情報を保護するために有効な技術として自信を持っているようだ。  どうして、こうした齟齬が生じているのだろうか。それは、Google という会社が、個人情報を利用してネットの広告を販売する広告会社の最大手だからだ。  個人情報を保護するというネットの流れには乗りたい。しかし、自社のビジネスに個人の興味についての情報は利用したい。だったら、その部分をブラックボックスにして外部から見えないようにする技術を提供すればよい。ブラックボックスは自分が作って……。  多くの人が、Google のやり方を問題だと感じて反対を表明した。こうした議論を呼んでいる Google の広告技術 FLoC とは、そもそもどういった技術なのだろうか。
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Googleの広告技術FLoCに潜む「欺瞞」
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