フィリップ殿下のお葬式は「近親者のみ」のシンプルなものに。これもまた英国人の現実主義の表れ。近所の教会の日曜礼拝も始まりましたがソーシャルディスタンスには慎重です
4月9日エリザベス女王の夫、フィリップ殿下が亡くなられました。享年99歳。翌10日は朝から晩まで追悼番組が続き、夜10時からのBBCニュースでもコロナ禍が始まって以来、2019年末からおよそ一年半ぶりに関連報道がまったくないものになりました。なんだか不思議な気持ちでしたね。
ただ、もはや決まり事のように報道されていた一日の新規感染者数や、病院の入院者数、死亡者やワクチン接種の一次、二次完了者数といった指標となるべき数字の提示すらなされなかったことで、10万件を超すクレームが寄せられました。これは英国TV史上最大の数字です(*
BBC)。
苦情の理由はペドファイル疑惑の晴れていないアンドリュー王子がインタビューに答えていたこと、娯楽番組がすべて潰されて価値観の多様性に応えなかった姿勢なども加わり軒並み視聴率も低かった。むろんフィリップ殿下が嫌われていたのではありません。が、ダイアナ妃のように愛されていたわけでもない。そしてダイアナ妃が死んだときはすべての報道が一色になるなんてことはなかった。
かくのごとく英国人は偏向や画一性を嫌います。フットボールの熱狂的サポーター集団〝フーリガン〟のような存在がある反面LGBTのファングループも同時に存在してPRIDEパレードに参加している。政治においても一政党支配が延々と続くなんてあり得ません。必ず揺り戻し(スイング)がある。
そういう意味では今回のワクチン絨毯接種の成功は非常に珍しい、いっそ英国的でない現象だといえるかもしれません。それくらいワクチンによるコロナ制圧のシナリオが理路整然としているせいもありましょう。ここ一番! というときに発揮される一致団結力(ソリダリティ)の発露も追い風になった。
英国では、こんなふうに犬同士のソーシャライジングにかこつけて知らぬ同士がささやかな会話を交わす風景がみられる。規制緩和が始まって幸福な風景があちこちで花を咲かせている
しかしなにより彼らの現実主義が功を奏した結果なのだとわたしは考えます。とりあえず四半世紀ここで暮らしてきて、この国の人々のリアリティチェック能力にはしばしば感心させられます(EU離脱以降少々怪しくなってきましたが)。アメリカなどでは未だに進化論の授業をオミットする(親にさせられる)子供がかなりいますが英国では聞いたことない。
けれど、やはり存在するんですよね。明らかに結果を出しつつあるプランにケチをつける人。コロナ禍という未曽有の惨事を目の前にして、屍体の山を見上げながら、そこから行動を起こせないタイプ。有り難いことに日本ではまだ「コロナによる死」に現実味がないのでわからなくもないんですが……。
市販薬よりもリスクの少ないのが新コロワクチン。1000万分の1の血栓発生の副作用を振り上げて「この印籠が目に入らぬか!」とやる人に、わたしはぜひこのインタビューを見ていただきたいと思います。ワクチンが原因で血栓ができて亡くなった方(わたしと同い年です)の妹さんの言葉(*
BBC)を聞いてほしい。この冷静に現実を直視する知性こそ英国人の稀有な美徳。これなくしては絨毯接種なんて不可能だったはず。
4月14日のガーディアン紙に(
ウェブ版は前日)、ロンドン大学付属病院のマリー・スカリー教授がワクチン接種後に血栓が発見されたとき正確にその原因を特定する診断テストを発見したという記事を掲載しています。患者の体に何が起こっているのか症状を精緻に把握することで、血栓が発生した場合に適切な処置をほどこせるようになるだろうと。
照査を重ね、霊感を得て「ユリイカ!」に至る物語はなかなかエキサイティングで手に汗握りました。スカリー教授は現在汎世界的な血液学者のワーキンググループが生まれ、新しい症例はすべて報告され、毎日のように検討が行われているのだと語っています。もちろん近い将来に副作用による血栓治療は飛躍的に進むと信じているけれど何よりもワクチン接種継続のため。
「なぜなら、それは素晴らしい(方法論だ)からです。絶対にストップしてはいけない。わたしたちの研究の目的は恐怖や不安ゆえにワクチンを拒絶する人を少しでも減らすためにある。血栓ができたとしても治るのだというメッセージによって」