12歳の少女に2458人の男が群がる映画『SNS-少女たちの10日間-』。突きつけられるおぞましい現実

「入り口」はすぐ側にある

 このような性的虐待・搾取をする男たちから子どもを守るためには、大人自身が問題に立ち向かう必要もある。初めに表示されるテロップからも、現実の子どもがとても危うい状況に置かれていることがわかるだろう。 「チェコの子どもの6割が、親からの制限を受けずインターネットを利用している」 「41%の子どもが、他人から性的な画像を送られた経験を持つ 「知らない人とネット上で会話する子どものうち、5分の1は直接会うことに抵抗を示さない」  これらは、犯罪に巻き込まれる子ども側に責任があるような論調に聞こえるかもしれないが、そのような「子どもの警戒心のなさ」が問題の一側面にあることは事実だろう。
©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

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 なおかつ、劇中には「親と衝突し不満を抱えている思春期の子どもは、自分を満たしてくれる相手を探している」という、ネットの交流へ発展する子どもの心理も語られている。劇中で起こる地獄のような出来事に、子どもが巻き込まれてしまう「入り口」はすぐ側にあるのだ。

残された重い「宿題」

 ここまで醜悪な出来事ばかりを並び立ててきたが、終盤では性的虐待・搾取を繰り返してきた男たちを、とある「囮捜査」とも言える作戦にひっかけることになる。もちろん、それは彼らの悪虐的な行為の数々からすればごく小さな反撃ではあるが、それでも「泣き寝入り」をするしかなかっただろう、性被害を受けた子どもたちの無念を少しでも晴らすかのような、一矢を報いるようなカタルシスがあった。
©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

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 だが、それで全てが解決ができるわけでもない。スタッフはもちろん、観客もまたこの問題に対する重い「宿題」を渡されたかのような、苦い後味が残る。事実、「この映画で何を変えたいですか?」という質問に対して、ヴィート・クルサーク監督は「社会だけでなく自分たちでどのように子どもたちを守っていくのか、その方法について前向きなアイデアが生み出されることを望みます。子どもたちが危険な状況に遭遇することを忘れないでください」と返している。「私たち1人1人が考えるべきこと」というのは、はっきりとした製作側の主張なのだ。  また、監督は「この映画が報復を扇動するようなことや、何か子どもたちに危害を与えそうと思われるものを禁ずるような流れにはならないことを願います」とも語っている。確かに、加害者に法律に基づくものではない報復を企てたり、一方的に子どもにネット利用をただ禁止するだけでは、問題解決にならないどころか、子どもとの関係を悪化したり、さらに問題の深みにハマってしまうことにもなるだろう。この宿題の答えは、観た人それぞれに委ねられている。  言うまでもないことだが、劇中で描かれていることは日本でも全く他人事ではない。日本でSNSの利用により犯罪の被害に遭った18歳未満の子どもは2019年に過去最高の2095人となり、2020年にも1819人にのぼっている。子どもがSNSをきっかけに裸の写真を要求された上に拡散されたり、実際に相手と出会ったために誘拐されることも、実際にこの日本で起こっているのだから。
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