ロンドン再封鎖13週目。花冷えの春の日のあとに続く緩和スタートの笑顔と現実<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ヒューマンライトの機能する国

さよならHabita

お目当ての店の一軒はこのコロナ禍を持ち堪えられなかったらしい。4半世紀お世話になってきた老舗の家具屋。がらんとした店内を見渡して愕然とする。さよならHabitat

 閑話休題。SAGEのモデリングチームは様々な仮定からアストラゼネカワクチンを2回接種すると、感染のリスクが31%減少し、症候性感染のリスクが85%減少すると想定しています。しかしそれでも国による対策は必須であると述べているのです。制限が解除されるからこそベースライン対策を維持せよと。  今年の1月、一日で6万人を超えていた新規感染者が今週には約95%減りました。これはワクチンのおかげもあるけれど基本的にはロックダウンのおかげです。死亡者数はとうとう1日10人にまで! こちらはワクチンの御功徳ですね。  これらの恩恵はとりわけ高齢者や基礎疾患のある人々、自己隔離の難しい貧しい暮らしを強いられている社会的弱者が受けています。そのことを考えれば不自由でも息苦しくても緩和はゆっくり控え目に、ワクチンはまだまだ積極的に――というのがヒューマンライトの機能する正しい国の姿勢だとわたしは思います。英国のメソッドを全面的に肯定するつもりはありませんが、慎重になった結果が現在第3波の吹き荒れる欧州各国だということをお忘れなく。  国民の半分がワクチンで抗体を獲得し、どれほど報道される感染者や死者が疎になろうとも、潜在的なコロナ陽性患者が英国にはまだゴマンといます。この人たちがなんの対策もせずに陽気に誘われたら確実に感染は増加傾向を示すだろうことは前述のモデルケースを紐解くまでもありません。  SAGEの見解は、まずワクチン接種の勢いを止めないこと。アストラゼネカを不安視する人々がいるならば、他のワクチンで対応できるようにすること。心理的な問題ですから払拭は難しいでしょうしね。まして今後は若い年齢層が対象になるわけですから。不思議なことに普段は頭が固いといわれる高年齢者のほうがワクチンに肯定的なのです。  次に検査の徹底。より早く、より簡単に。感染チェックを習慣づけること。SAGEの行動科学班率いるスティーブン・ライヒャー教授は、英国のすべての人が週に2回のイムノ・クロマトグラフィーを実施するべきとまで言っています。 「けれど人々がテストしない主な理由は、自分がポジティブだと〝知る余裕がない〟ことです。テストの数だけを増やしても無駄。だから陽性となった人への支援を政府は打ち出さねば。お金の心配なく自己隔離できるシステムがあってこその検査です」

まだまだ我慢は強いられる

ロンドン大学付属病院

今日歩いたエリアにはロンドン大学付属病院がある。その一角はまだヴィクトリア朝建築で、エレファントマンが幽閉された塔が残る。解放された日の彼の気持ちが胸に染む一日だった

 ワクチンの血栓リスク同様に室内施設への入場におけるワクチンパスポート提示の義務化もリスクを乗り越えて実施すべき(興味深いことに、これへの反感も若者が目立つ)という見解もSAGEは出しています。会場や職場の安全性を高めたうえで、より多くの人々が自宅で仕事をするための支援も国の義務だと。  もうすぐやってくるホリデーシーズンに先立って英国政府は「信号システム」を発表しています。緩和後もその日の流行の状態に応じて、緑(制限なし)、黄(自宅での検疫)、赤(隔離ホテルでの正式な検疫)、の旗を立てて対応するというもの。しかしこれに対してSAGEは懐疑的です。  なぜなら、わたしたちはすでに、あらゆる国にあらゆる種類の変異株があり、さらに増え続けていることを知っているから。もはやポジティヴであればみな同じ対応をすればいいというものではないから。英国人が外国へ出て、そこからウィルスを輸入してくる構図は鎖国以外の手段で変えられません。いまのところ追跡(トレース)システムの精度を上げることでしか対応できないのは歯痒い限りです。  こうして改めて書き出してみると、なんと当たり前のことばかりだろうと思います。一部の国、台湾や韓国、ニュージーランドなどではワクチン接種を始める前段階で非常に効果的な検査制度とトレースシステムによってパンデミック前に新コロを撃退しました。それがどこの国でも敷衍(ふえん)できるタイプのものであればよかったんですけどね……。  もしかして、そういう成功例があったからワクチンでなくてもなんとかなるのでは? と考える人がいるのかもしれません。けれど、もはやその希望に縋ることはできないのです。英国の正反対の方法論を続けているのがブラジルですから。あそこ、7日には死者4000人ですから。  ある意味「もう二度と英国はロックダウンに戻らない(britain never never never shall be Lockdown)」と謳うためには、ロックダウン中以上の注意深さで生活してゆく必要があります。その我慢をできる人が多ければ多いほど、ニューノーマルに順応できる人が増えるほどマスクなしで歩ける日々が近づいてきます。
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医療崩壊で治療されなかった命
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