『アンモナイトの目覚め』実在の古生物学者を同性愛者として描く「必然」、その成功の理由。

© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

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 4月9日より、イギリス映画『アンモナイトの目覚め』が公開されている。  本作は『タイタニック』で一躍その名を知られ『愛を読むひと』でアカデミー賞を受賞したケイト・ウィンスレットと、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などでアカデミー賞4度のノミネートを誇るシアーシャ・ローナンの初共演作だ。  そして、実在の古生物学者であるメアリー・アニングの姿を追い、その恋心(同性愛)を綴った作品でもある。実際のメアリーは、わずか13歳で後に「イクチオサウルス」と命名される魚竜の世界初の全身化石を発掘し、その研究の数々がチャールズ・ダーウィンの進化論の理論形成にも影響を与えたと言われる偉大な女性だ。  そのメアリーを同性愛者として描くというアプローチが「必然」と思えることにも、本作の意義があった。その理由や、さらなる作品の魅力を、以下に記していこう。

静かに、しかし劇的に訪れる関係の変化

 1840年代、イギリス南西部の海辺の町。世間とのつながりを絶つように母親と2人暮らしをしていた古生物学者メアリー・アニングは、イクチオサウルスの全身化石を発掘した栄光も遠い過去のものとなり、今では生活のため観光客用の土産物のアンモナイトを探して売って暮らしていた。そんなメアリーはある日、裕福な化石収集家の妻シャーロットを数週間預かることとなる。美しく可憐で奔放、自身とは何もかもが正反対のシャーロットにメアリーは苛立ちをつのらせるが、やがて秘めた恋心に気づいていく。
© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

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 その過程では、2人の関係の変化が静かに、しかし劇的に描かれている。例えば、メアリーは初めこそ面倒を押し付けられたため露骨に迷惑そうな顔をして、化石採集のための浜辺についてきたシャーロットを冷たく突き放す。しかし、シャーロットが高熱を出して倒れ、医師から24時間の看護が必要だと言われたメアリーは、初めこそ「冗談じゃない」と拒絶するものの、苦しそうにうなされるシャーロットを見かねて、献身的な介抱をしていくことになる。  その関係の変化の中でも白眉と言えるのが、音楽会での出来事だろう。すぐに上流階級の輪の中に溶け込むシャーロットの姿にショックを受けたメアリーは、ひとりで帰宅してしまう。その後にシャーロットはそんなメアリーの気持ちを鑑みて、2人の関係が大きく進展することになるのだ。

『燃ゆる女の肖像』を連想させる理由

 「奔放な若い女性」が「人間嫌いの妙齢の女性」と次第に打ち解けていく様は、それだけでスリリングで面白い。下世話な言い方をすれば、ツンデレそのもの(ほぼツンしかない)だった女性の心が、かわいい女性のアプローチで次第にほぐれていき、そして激しい性愛にも発展していくのだ。もちろん主演2人の熱演も最高峰であり、誰もが心を許すだろうと思えるシアーシャ・ローナンの人懐っこさ、不器用そうでもあったケイト・ウィンスレットが見せる激情に、心を揺さぶられた。  また、シャーロットは美しく可憐で奔放ではあるが、流産のショックから立ち直れずうつ病になっている女性である。彼女もまた等身大の悩みを持つ女性であり、正反対に見えた2人が実は同じように生きづらさを抱えている、ということも彼女たちが結びついた理由なのだろう。
© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

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 画作りも演出も「静謐」という言葉がふさわしく、「表情の変化」に注目すれば存分にスリリングであり、異なる立場および性格の女性たちの悩みが深く鋭く描かれ、そして世間の目が厳しかった時代の同性愛を綴った作品であることなどから、『燃ゆる女の肖像』も連想させた。どちらの作品も「光と影」の演出がこだわり抜かれており、この『アンモナイトの目覚め』においては「ベッド側にあるロウソクの光」がどのように扱われているかにも注目すると、さらに面白く観られるだろう。 【もっと詳しく】⇒『燃ゆる女の肖像』18世紀の女性2人、一生にわたって意味を持つ、恋の光の影とは。
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独自の解釈でメアリー・アニングを追った理由
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