『アンモナイトの目覚め』実在の古生物学者を同性愛者として描く「必然」、その成功の理由。

メアリー・アニングの来歴と偉業を知ってほしい理由

 この『アンモナイトの目覚め』で初めてメアリー・アニングという名前を聞いたという方も少なくはないだろう。ぜひ、映画を観る後でも前でも良いので、彼女のことをさらに知って欲しいと強く願う。  何しろ、メアリーの生涯は苦労の連続だ。11歳の時に父が亡くなったため兄と共に化石発掘で家計を支えるようになり、その後も独学で多くの化石を発見したにもかかわらず、女性で労働者階級であったメアリーは論文発表も学会入会も認められなかった。
© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

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 さらに、メアリーは発見した貴重な化石を多くの博物館や研究者に売ったものの、それに関する論文や展示品には彼女の名前すら紹介されなかったことも多かったのだという。その理由は、当時は学問の研究は男性がするものだという偏見がはびこっていた他、メアリーが裕福ではなく化石を売って生活していたことから、古生物学者ではなく「化石販売業者」とみなされてしまったことにもあるそうだ。  メアリーを経済的に助けてくれた仲間がいたり、死の直前にロンドンの地質学会から名誉会員に推薦されたりはしたものの、やはり生前に正当な評価を得られていたとは言えないだろう。フランシス・リー監督が言ったように、女性が男性の従属的な立場にある時代で、社会的地位と性別のために歴史からかき消されそうになってしまっていた彼女の来歴を知れば、さらに『アンモナイトの目覚め』の劇中のメアリーの心情について、「きっとこういう苦しい気持ちだったのだろう」とより深いところまで想像がおよぶだろう。  そして、現在のヨーロッパやアメリカではメアリーの絵本や児童書がたくさん出版されており、彼女は「他人の目を気にせず、科学の世界で活躍した女の子」のイメージを代表する存在にもなっているのだそうだ。さらに、メアリーの死後から163年の時を経て、2010年になってようやく、イギリスの王立協会がメアリーを「科学の歴史に最も影響を与えた英国女性10人」の1人にも選んだのという。  そんなメアリーを「知られざる偉人」にしておくのは、あまりにもったいない。ぜひ、その生涯の一端を(創作ではあるが)知ることのできる『アンモナイトの目覚め』と合わせて、その功績にも想いを馳せてみてほしい。 【参考資料】 『メアリー・アニング(コミック版 世界の伝記41)』(ポプラ社) 「Debate rages over ‘fictional lesbian romance’ in Kate Winslet movie about fossil pioneer Mary Anning」(2019年3月12日、yahoo!movies) <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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