朝日新聞が全面広告企画で偽装勧誘カルトの教祖本を抱き合わせ宣伝。寄稿者からも批判

朝日新聞による紛らわしい広告手法

 今回の広告には、もう1つ問題がある。1万年堂出版の単独広告ではなく複数の広告主をまとめた広告のようなのだが、広告としての書籍推薦と第三者による通常の書籍推薦を組み合わせ、読者が広告とそうでないものを判別できない形になっている。  広告ではなく通常の書籍推薦を寄稿した1人であるエッセイストの能町みね子氏はTwitterで、事前にこうした企画であることを知らされておらず、自身は真面目に考えて推薦図書を選んで寄稿した旨を投稿した。この広告企画で能町氏が推薦したのは、『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(栗原康著、岩波書店)。アナキストの伝記だ。  改めて能町氏にコメントを求めると……。 「私が広告ではなく寄稿を依頼されて推薦した本と、自薦による宗教団体の本がステルスマーケティング的に並ぶことは、私が推薦した本が宗教団体のために踏み台にされたようで非常に腹立たしく、モラル上、大きな問題があると思います。また、宗教団体の本以外についても、この広告では大半が自薦(あるいは自社の推薦)の本であり、広告のタイトルがある種、誇大なものとなっているのではないでしょうか。朝日新聞側には経緯を尋ねているところでお返事もいただいていますが、宗教団体関連の本に関する経緯についてはまだお返事をいただけていません」  冒頭に示したように、この広告企画には〈様々な方面の方々が「君にこそこの本を贈りたい」と厳選した一冊をご紹介します〉というリード文がついている。それでいて実際には広告や自薦が大半で、広告部分とそれ以外の判別ができない体裁。  掲載紙面の端っこに「全面広告」と書かれているとは言え、広告部分を広告でないかのように装って見せる効果を持つ点は「ステルスマーケティング(ステマ)」の要素を伴っている。  朝日新聞東京本社が会員となっている日本新聞協会。その新聞広告掲載基準が「以下に該当する広告は掲載しない」として挙げている中に、こういうものがある。 〈責任の所在が不明確なもの〉 〈編集記事とまぎらわしい体裁・表現で、広告であることが不明確なもの〉  朝日新聞自身、昨年7月に「番組か広告か 視聴者惑わせぬ放送を」と題する社説を掲載している。テレビの「広告と混然一体となったような番組づくり」を批判する内容だが、最後はこう締めくくられている。 〈新聞やネットも他人事ではない。受け手に疑念を抱かれないようにする。このことを常に念頭に、発信する内容や表示の仕方をチェックする必要がある。〉  そもそもが問題を孕む微妙な手法の広告だった。それによって、偽装勧誘ツールになっているカルト教祖の本を「世に出回っているマトモな本の1つ」であるかのように演出した。こうした趣旨や構成であることを寄稿者に伝えていなかった。  いくつもの違う問題が組み合わさっている。読者に対しても寄稿者に対しても不誠実ではないだろうか。

朝日新聞社は「親鸞会問題」への言及避ける

 朝日新聞社広報部に事実関係と見解を求めたところ、以下のコメントだった。 「この企画は出版社ならびに広告会社の皆様にご案内させていただきました。ご質問いただいている出版社につきましても、企画の趣旨に賛同いただき、出稿いただいた協賛企業のひとつになります。  今回の企画では、出版社の協賛を伴う寄稿と、伴わない寄稿を同じ体裁で織り交ぜておりました。こうした手法は、寄稿いただく方々への敬意を欠くものだったと反省しております。また、自著の推薦については差し支えない旨の判断をしておりましたが、この判断について関係の方々への周知が徹底されていませんでした。大変申し訳なく思っております。」 朝日新聞からの回答 これはコメントの全文だ。広告とそれ以外の寄稿を混在させた手法について、「寄稿者への敬意を欠く」点を反省する内容で、読者に対する謝罪や反省はなかった。  また取材の申し入れの際に私は、親鸞会の偽装勧誘問題を認識しているかどうかや、そういった宗教団体関連の広告を載せることへの見解を求めた。朝日新聞社の回答はこの点に全く触れなかった。

昨年も類似の広告企画を掲載していた

 なお、今回の広告を企画・制作した朝日新聞社メディアビジネス局は昨年11月にも、今回と同じような広告企画を紙面に掲載している。文化通信社の「ギフトブック・キャンペーン」と組み合わせた広告で、1万年堂出版『歎異抄をひらく』を最上段に掲載した他、聖教新聞社『四季の励ましII』(池田大作・著)も掲載した。  「ギフトブック・キャンペーン」は34人の著名人や企業経営者が「セレクター」として各3冊の推薦図書を紹介する「ギフトブック・カタログ」を販売する企画。昨年11月1日から2カ月間行われた。「ギフトブック・キャンペーン」のウェブサイトで確認すると、『歎異抄をひらく』『四季の励ましII』を挙げているセレクターはいない。  朝日新聞社による広告は「ギフトブック・キャンペーン」と似た別企画として朝日新聞社独自のセレクション16冊を掲載したもので、そこに『歎異抄をひらく』『四季の励ましII』が含まれた形だ。この2冊を含め、出版社関係者が自社の書籍を紹介するものが大半を占めている。
ギフトブックキャンペーン

ギフトブックキャンペーンのツイートより

<取材・文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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