親鸞会の偽装仏教講座のテキスト(筆者撮影)
私自身、2014年に世田谷区の公共施設で開催された親鸞会による偽装仏教講座とアニメ上映会、教祖講演の映像視聴集会に潜入したことがある。
〈参照:やや日刊カルト新聞:
親鸞会が世田谷区施設で偽装勧誘=区は放置の方針〉
このときの客層は高齢者ばかりだった。主催団体は
「歎異抄に学ぶ会」。講師は親鸞会講師である人物だが、事前に周辺地域のポストに投函されたチラシにも当日のイベントでも、「親鸞会」という言葉は一切出てこない。仏教講座での講師の話は、人生がいかに虚しいものかをやたらと強調し、親鸞の教えがその救いになるという考えに誘導していく内容だった。
休憩時間には、会場の客席にいた参加者から後日の別イベントに誘われた。そこにも行ってみると、高森会長の法話の中継を拝聴する集まりだった。私を誘ったのは、仏教講座の客のように見せかけた信者。つまりサクラだ。
法話に誘われた仏教講座の場でも、法話の場でも、私はこれがどういう団体で高森氏とは何者なのか尋ねた。それでもなお彼らは宗教団体であることを明かさなかった。高森氏については「浄土真宗の有名な先生」「坊主ではない」という説明だった。
私は前もってこれが親鸞会であることを知った上で潜入したが、これが一般の来場者だったらどうだろう。宗教団体の行事ではなく文化講座の類だと思い込まされたまま、なし崩しで信者にされてしまうのではないか。
ちなみに上記の「やや日刊カルト新聞」の記事を掲載した際、潜入取材の映像もYouTubeで公開した。しかし親鸞会側が「著作権侵害」を理由に削除を申し立て、YouTubeが映像を削除。現在は別の映像サイトで公開している。
大学生への偽装勧誘だけではなく、公共施設で一般市民に対する偽装勧誘も行い、その実態を示す証拠はインターネット上から削除させる。こうして現在に至るまで、この勧誘手法を続けているのが親鸞会だ。
インターネットのイベント告知サイトで『歎異抄をひらく』を検索すると、多くのイベントが見つかる。たとえば「
こくちーずプロ」でハッシュタグ「#歎異抄」を検索すると、ヒットする講座やイベントの大半が親鸞会なのではないかと思えるほど、大量に親鸞会の偽装イベントを見つけることができる。
まるで文化講座のように見せかけた「仏教講座」、仏教の教えを混ぜた心理学講座、人生相談会、異業種交流会、「なぜ生きる」をテーマにした講座もある。「なぜ生きる」は、これまた1万年堂出版から刊行されている、高森顕徹氏監修の書籍のタイトルでもある。
いずれも講師が「仏教講師」とだけ名乗るパターンが多く、告知の中に「親鸞会」の文字は一切ない。講師が「浄土真宗」を名乗ることはある。一般的な浄土真宗宗派であるかのように思い込ませる手法だ。
同様に「1万年堂出版」を検索すると133件がヒットする。最新のイベントは2月に開催された〈~オンライン講座「心のお医者様ブッダに学ぶアンガーマネジメント」~〉。講師の岡本一志氏は親鸞会講師だが、もちろんこのイベント告知では触れられていない。「一般社団法人全国仏教カウンセリング協会代表」を名乗り、著書として『幸せのタネをまくと幸せの花が咲く1,2』(1万年堂出版)を挙げている。
今回、朝日新聞が広告として掲載した『歎異抄をひらく』は、こうした類いの偽装イベントの「教材」として活躍している。
「こくちーずプロ」で「歎異抄をひらく」を検索すると、全て終了済みだが2019年5月以降の2年分、78件がヒットする(書籍を原作としたアニメ映画『歎異抄をひらく』関連も含む)。開催地域は東北地方から九州まで、ほぼ全国規模だ。
たとえば昨年6月には〈類を見ない1万年堂出版の本『歎異抄をひらく』の本をテキストとして学ぶ講座です〉と称する「仏教教室」が鹿児島県で繰り返し開催された。主催団体は「大人の仏教サロン」。告知には「親鸞会」の文字は一切ないが、「仏教講師」を名乗る前川新吾氏は、親鸞会本部での法話も務めている人物だ。
『歎異抄をひらく』は、ただの「カルト教祖の本」ではない。内容の良し悪しが問題だというわけでもない。偽装勧誘のツールそのものなのだ。
上記の偽装イベントの「仏教講師」たちのプロフィールを見ると、宗教関係の専攻でもないのに大学卒業後、唐突に「仏教講師」になっているケースがいくつかある。「僧侶」や「住職」ではないから、実家が寺なので跡を継いだという話でもなさそうだ。
彼ら自身が、大学生時代に親鸞会の偽装勧誘によって入信し、そのまま教団所属の講師になってしまったクチなのではないだろうか。被害者が加害者となり新たな被害者を再生産する地獄のようなサイクル。親鸞会の偽装勧誘とは、そういう問題なのだ。