部活では
全国大会に出場、海外に転勤になってからも、
現地の友人とスポーツを続けていたKさんは、
30代半ばの働き盛り。一般人と比べれば、
むしろ健康的な生活を送っていたぐらいだ。
だが、一日、また一日と日は過ぎていくが、
症状はまるで緩和せず。Kさん自らが「
地獄」と語る苦しみは、永遠に続くかのようだった。
「風邪ならば水分をとって汗をかいたら楽になるはずが、
吐き気が尋常じゃなかったんです。
仕事のメールも読めない。
動いているものを見ると吐き気がするので、テレビやネット動画も見られず、ずっと漫談の音声だけ流していました(苦笑)」
「
コロナは風邪と同じ」が一転、「
明日まで生きられるのか」という考えが脳裏をよぎるようになった。
「何もできないけど、何もしないわけにもいかない。とにかく、
呼吸が苦しくなったら、入院しようと決めていました。ただ、言葉も通じないし、
そこまでいったら、正直厳しいかもと思っていましたね。会社の同僚に迷惑かかるとか、しんどすぎて考えられませんでした。
生きるのに精一杯で、祈るだけでしたね。『
頼むから呼吸だけは、明日の朝起きても無事にしていてくれ』と」
幸い、食事は軽食とはいえ、しっかりとっていたKさん。しかし、日がたつにつれて回復するはずが、
状況は悪化するばかりだった。
「食事に関しては、
二週間目からがキツかったです。ようやく悪寒が引いて楽になったと思ったら、その日の晩に
足腰の節々や筋肉が痛すぎて寝られませんでした。不眠のまま朝起きたら、
今度は腹痛。それも
激痛で、
丸2日水だけの絶食状態に。ただ、絶食したら、症状はかなりよくなりました。そこからは回復食で5日ぐらい慣らしましたね」
こうして、長い長い「
地獄」は終わった……はずだった。しかし、現実には
長い後遺症にも苦しんでいるという。
「仕事は
一か月ほど半休をもらいました。それでも、今でも体力が戻らず、
階段を上がるだけでもしんどいです。絶食の影響で胃が小さくなって、
基本的に体調がよくない。
体重も5キロぐらい落ちました」
いまだに完全には回復していないKさん。かつての自分と同じく、「
コロナは風邪」と信じている人たちには、「
言っても多分、無理(伝わらない)」としつつも、次のようなメッセージを送る。
「コロナは
症状にめちゃくちゃ個人差があります。深刻になるかならないかは、持病の有無などもありますが、
人次第なので運です。
これといった対策もないので、深刻化したときには精神を強く保っていたほうがいいですよ(苦笑)。身体的にはどうしようもなく、『
こうすれば症状がよくなる』という方法もないので、
風邪やインフルとはまるで違います。水を沢山飲んで
汗をかいたり、解熱剤を飲めばいいというわけじゃないので」
病は気からというが、コロナの脅威を見くびっていたKさんにとって、
吐き気や
悪寒、
節々の激痛や
腹痛と同じく、
メンタル面での影響も小さくなかったという。
「海外に住んでいることもありますが、『
入院したら死ぬ』と思っていたので、
プレッシャーがスゴかったです。多分、『コロナは風邪』論者に言っても伝わらないと思いますが、
想像していたよりもツラい。私も周りで感染した人から話を聞いていたので、
そこまで酷くはないだろうと思い込んでいたんです。
そのスタート地点が間違っていました。『
侮る必要がない』『
しんどいと思っていたほうがいい』『
心構えはしておいたほうがいい』と伝えたいです」
インフルエンザのように体温が急上昇するものの、下がれば安心し、治ってきていることを体感できるわけではない。Kさんのように、
症状が緩和するどころか悪化し、
命の心配をすることになるケースもあるのだ。
「
平熱になってもしんどかったですし、
症状がよくなる目安がないんです。
人によって、いつしんどくなるかも違うので、気が気じゃありませんでした」
先行き不透明な東京五輪に向け、自粛解除など再び社会が動き出している日本。「
コロナは風邪と同じ」と信じている人がどれだけいるかはわからないが、果たして彼らにKさんの声は届くのか。今後の感染状況に注目だ。
<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン