テレビCM解禁による業界側のメリットは何なのか。
まずはパチンコ店の視点から。広告宣伝が風営法によって厳しく規制されているパチンコ店にとって、遊技機のテレビCMによる集客効果は捨て難い。漫画やアニメ、ドラマやアイドル等の有力コンテンツを搭載した遊技機のCMは、そのコンテンツのファンをパチンコ店に呼び込む切掛けになるかも知れない。またパチンコ店から遠ざかっているオールドスリープユーザーにまた足を向けてもらう呼び水になるかも知れない。
何よりもテレビCMを見た人たちが、その遊技機にある種の期待感を抱いてくれることのメリットは大きい。近年、遊技客数が下降線を描くのも、客のパチンコという遊びに対する期待感の減退が大きな理由になっている。テレビCMは、もちろん視聴者にそう見えるように製作するのだろうが、当たりそう、面白そう、という意識を客の中に作ってくれるはずである。
メーカーにとってのメリットは言わずもがな。テレビCMを利用したプロモーションは、パチンコ店に対する販促に繋がる。
パチンコ店側もA機とB機で購入に迷ったら、テレビCMが流れているほうを選択するだろう。遊技機の販売台数は年々減少している。CMの自粛が始まった2012年には、パチンコ機だけでも年間254万台も売れていた。それが昨年2020年には95万台の販売である。コロナ禍による業況悪化を受けて、多くの遊技機メーカーが大規模なリストラも始めている。今回のテレビCMの解禁がどれだけ販売台数に影響を及ぼすのか。一番期待感を持っているのは、客ではなくメーカーかも知れない。
一方で、テレビCM解禁によるデメリットに言及する業界関係者もいる。
「テレビCMの解禁がそのまま遊技機の販売価格に影響するのでは無いかと危惧していますよ。10年前は30万を超えることがなかったパチンコの新台が、今では1台50万円を超えています。CM解禁を理由に更に価格が高騰するようなことになれば、今よりもホールの買い控えが起こりますよ」
こう話すのは都内のパチンコ店店長。彼はまたこうも言う。
「資金力のある大手ホールと中小零細ホールの格差がより広がるんじゃないですかね。CMによって話題になった遊技機を多台数購入できるホールにお客さんが集まれば、資金力が無くその遊技機を購入できない、購入できても少台数しか導入出来ない中小零細ホールからはお客さんがいなくなります。ホールだけじゃなく、メーカーだってそうでしょう。CMに大金を投入できるメーカーの遊技機が売れ、そんな大枚を叩けない中小メーカーの遊技機は売れない。業界全体でより一層格差は広がるし、淘汰が進むんじゃないですかね」
満を持して解禁される、パチンコ遊技機のテレビCMが、メーカーとパチンコ店と客のそれぞれにどう影響するのか。メーカーはCMに大金を使い、それに乗せられたパチンコ店が大量にその遊技機を購入し、その費用の回収のため客の財布が痛むようでは、笑うに笑えない。いや、笑うのは大手広告代理店とテレビ局だけか。
<取材・文/安達夕>