コロナ禍で活躍する「キューバ医療団」。そのブラックな労働環境と犠牲になるキューバ国内の医療事情

派遣先によって環境は違うものの「奴隷」的労働なのは変わらず

 その一方で内科医でサウジアラビアに2019年から2020年半ばまで派遣されていたアレックス・パルド・カストロは医薬品を捨てるといったことはなかったそうだ。また医師の安全を守る防護具などはすべて揃っていたという。  ところが、同地の医師が受け取っていた収入と比較して彼らが本国から要求されている条件を満たさねばならないことに自分が奴隷の身であることを強く感じていたそうだ。  本国から規定されている条件というのは彼と政治的に異なったイデオロギーの人とは友達になってはいけないということ。また彼の兄弟がミッションを止めたいという意向があれば、それを告発する義務があるということだ。  また報酬についても、貰っている給与の75%を政府に譲渡せねばならないということ。サウジの場合はサウジの関係当局がキューバ政府に払うのではなく医師に直接支払っていたということ。それで、医師がその中から75%をキューバに送金する必要があった。しかも、サウジの当局がそれを感知することが無いように、送金の受取人は本人の身内を受取人として送金することになっていた。その義務を守らない場合はキューバに戻されて刑務所に送られるようになる、ということだ。しかも、食費や光熱費は本人が負担するということで、逆に家族が彼に送金せねばならなかったそうだ。

横行する政府による「搾取」

 一般に外国に派遣された場合はキューバ政府が派遣国から全額を受け取り、その25%を派遣された本人に支給することになっているが、例えば11か月分の支給すべき給与が溜まっていても、そこから必ず4-5か月分を差し引き、休暇などに出かける時に残金を支給するというシステムになっていたそうだ。  パルド・カストロはそれに嫌気がさして本国に送金しなくなった。そうしたら電話番号の不明先から頻繁に電話がかかるようになって契約を破棄されキューバに戻るように指示された。帰国はマドリードで経由だったということで、そこで亡命申請をしたそうだ。 一旦、亡命するとミッション用に支給されるパスポートも無効となり、仮に医療活動をするとなっても闇での就労となってしまう。パルド・カストロにとってこれから厳しい現実に直面せねばならない。  医療団としてベネズエラに派遣されていた時に逃亡してグアンタナモの総合病院で働くようになったある医師(匿名希望)は前述のNGO組織に彼の経験談を語ったそうだ。それによると、「ブラジルやベネズエラに派遣される医師は事前にミッションの為のコースを受けることになっている。そこではキューバにおける現状や給与について話すことは厳禁。そしてキューバの医師は世界のどの国の医師と同じような生活している。我々はキューバの大使のようなものだ、というのが義務となっていた」と述べたことが『Diario de Cuba』紙の2月21日付の記事になっていた。
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医療団派遣の一方でキューバ国内の医療状況は……
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