ロンドン再封鎖8週目。感染しなくてもみんな傷ついているのがコロナ禍の世界<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ブラジル変異株への警戒

ブラジル産Kabocha Pumpkinを冬場には毎週のように購入する

ブラジル産Kabocha Pumpkinを冬場には毎週のように購入する。味も食感も日本産そっくり。10年程前から輸入が始まった。入手困難になると困る。コロナに負けるなブラジル!

 この変異株に対して現在のワクチンでは効果が得られないかもしれないという不穏な噂が煙めいて漂っています。しかし、それは「おばけけむり」だよと国民保健サービス(NHS)は注意を促しています。「同じだけの効果が変異株にも期待できます」と。英国は他国よりウイルスの突然変異特定研究は先んじてるので信じていいでしょう。こんなになっちゃったのは政治家の不手際。専門家のせいではありません。  この騒動を知って最初に考えたのは「いまだに〝あの〟ブラジルと行ったり来たりできるんかい!」ということでした。しかも個人情報残さずにバックレって、なんじゃそりゃ! です。大慌てで身元の分かっている陽性帰国者の地域住民への検査が行われているようですが、どうかクラスタ発生しませんよう。  むろんわたしがブラジルに〝あの〟をつけるには根拠があります。現地で蔓延中の変異株は、自国で25万人以上の犠牲者を出したのみならず、このパンデミックによってさらに危険な環境をブラジルに創造してしまったという専門家のリアリティある警告(*参照:The Guradian)があったからです。  デューク大学の神経科学者ミゲル・ニコレリスは英ガーディアン紙のインタビューのなかで「ブラジルがコロナウイルスの繁殖地であり続けるのであれば、ヨーロッパや米国でパンデミックを御したところで、なんの意味があるでしょう?」と話しています。「世界は、もっとブラジルに強い態度で疫病封殺を迫らなければなりません」とも。  現職のブラジル大統領ジャイール・ボルソナロは常々新コロを「ただの風邪に過ぎない」と鼻であしらいパンデミックを処理するためのなんの方策も努力もしてきませんでした。早い話がトランプと似たタイプの蒙昧な経済優先型極右。このままではこれからの一年で倍率ドン! さらに倍! の25万人が死ぬだろうと試算されています。 「いまのブラジルは恣(ほしいまま)にウイルス増殖させた結果、コロナの性質に従ってより致死性の高い強力な突然変異種を誕生させるための野外実験室になりました」  〝震源地〟であるマナウスでは私立、公立とも医療崩壊しており、3月2日には1726人の死者が報告されています。それでもボルソナロはロックダウンどころか封鎖を非難する始末。英国がなんの特別な措置も取らず易々とイミグレを通してしまったのは、そんな国からの渡英者なんです。イパネマの娘ならよかったんだけどね。

9月の「プライド・イン・ロンドン」が希望

例年なら6月末に催される『プライド』

例年なら6月末に催される『プライド』。かつてのようなメッセージ性はなくなりましたが、それでも幸福感のあるイベント。銀行はじめ英国のトップ企業が挙って協賛するのも見もの。

 これからブラジルがどんな道を辿るか、わたしたちはよく見ておいた方がいいでしょう。それはトランプが再選していた、あり得るべきアメリカの姿。生活習慣の違いとDNAのおかげで不戦勝にならなかった、あり得るべき日本の姿なのです。  南アや中国からの偽ワクチン、緩和計画が発表されたと同時のホリデー予約ブーム、頭の痛い問題はブラジル変異株以外にも山積み。しかし3月3日にはLGBTQ『プライド・イン・ロンドン』の9月11日再開がアナウンスされました。政府のイベントカレンダーにも掲載される性的マイノリティの祭典。世界から150万人を集めます。これがあるなら英国は大丈夫かもしれないなと楽天的になれるのでした。 ◆ 入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns【再封鎖8週目】2/25-3/3 <文・写真/入江敦彦>
入江敦彦(いりえあつひこ)●1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『イケズの構造』『怖いこわい京都』(ともに新潮文庫)、『英国のOFF』(新潮社)、『テ・鉄輪』(光文社文庫)、「京都人だけが」シリーズ、など京都、英国に関する著作が多数ある。近年は『ベストセラーなんかこわくない』『読む京都』(ともに本の雑誌社)など書評集も執筆。その他に『京都喰らい』(140B)、『京都でお買いもん』(新潮社)など。2020年9月『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)を上梓。
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